2012年創業の「おっさんレンタル」代表者でありCEOである西本貴信さん54歳。本業はファッションプロデューサー・スタイリスト。そもそも西本さんはどうして「おっさんレンタル」をはじめたのだろうか。

「電車の中で女子高生がおっさんたちを軽視している発言をしてたんです。おっさんの耳毛がどうとか。それを聞いてふと思ったんですよね。おっさんってなんでこんなにネガティブな存在なんだろうって。

当時自分は44歳でおっさんじゃないと思っていたけど、世の中のおっさんはそういうふうに見られてるんだなぁと思って、名誉挽回(ばんかい)したかったんです。おっさんの地位を回復するじゃないですけど」

それからたまたま行ったTSUTAYAで、棚に「おっさん」っていうアイテムがあったら面白いなと思いつき、「おっさんレンタル」を始める。ネーミングと値段は妻のアイデア。1時間1000円というのは「ランチの値段くらいが妥当かな」という思いから決まったという。

「自分を1時間1千円で貸し出すことで、おっさんが若い人たちの応援をできたら名誉挽回になるんじゃないかなって。おっさんと若い人との壁がけっこうあるなと感じたので、お互い肩よせあって、先輩後輩と言える世の中を作りたかったんです」

当時はレンタル彼氏というものがあったくらいで、まだまだこの手のレンタル事業はなく、はじめるとすぐにユーモアあるネーミングで話題になり、WebニュースやTV番組で取り上げられた。

「名前が先に走った感はありますね。正直、当初は10年も続くなんて予想してなかったです」

ユーザーの8割は女性。レンタル内容は、相談系7割と作業系3割。恋愛や仕事などの相談や愚痴を聞く相手から、パソコンの設定や電気の配線修理などの作業まで。知名度が上がってからは、1人で行けない場所への付き添いのような依頼も増えていく。

今でこそ69人のおっさんを抱えているが、最初の2年間は西本さん1人だけだった。しかし「商品にはバリエーションが必要」と3年目からおっさんを増やし、現在では38歳から69歳まで、実にさまざまな69人のおっさんがいる。それぞれに「◯◯おっさん」とキャッチコピーがあり、「コンサルおっさん」や「話を聞くおっさん」らがいる。

採用の際には、面接で人柄を見て、謙虚さを重視して決める。しかし、実際現場に出るとマウントを取ったり、自分の武勇伝を延々と話してしまったりするおっさんも、まれにいるという。そういうおっさんは大抵、ユーザーからのクレームによって判明し、年間3回指摘が来るとクビになる。自分の本業を宣伝しない、性的なことはNG、相手が未成年の場合は20時まで、などの決まりを守ってもらえたら、レンタル内容は基本、おっさんに任せている。

創業当時より値段は変えてない。1千円なら気軽に借りられるし、失敗しても許せる範囲だから。また、大のおっさんを1千円じゃ悪いと思うからか、2時間から借りる人が多く、相場は大体2千円。
自分のニーズに合うおっさんを選ぶ

当初、利用者は若い男の子を想定していたが、実際はなかなか増えていない。その理由について西本さんは、世の中のおっさんのイメージがあると語る。

「世の中のおっさんは我が強かったり、プライドが高かったりして、男の子相手に根性論をかざしたりしてしまう人が多いのかも。おっさんレンタルのメンバーになる人は、若い子に歩み寄っている人が多いんですけどね……」

とはいえ、男の子の利用者がゼロなわけではない。実際、3割は男性で、将来や仕事の相談や、大学教授であるおっさんへの論文のチェックや面接の練習などの依頼もある。

https://news.yahoo.co.jp/articles/9065a6552b3f9dd0699283dee91bdd84e313108b