脳に電気刺激を与えて治療、うつ病や自己免疫疾患にも、進む研究
6/10(金) 17:19配信

うつ病の臨床試験

 シェス氏は、重度のうつ病患者の場合も同じようにして調節不全になっている脳の回路を特定できないだろうかと考え、2020年3月に臨床試験を開始した。

 1人目の被験者となった37歳の男性は、長年重度のうつ病を患い、様々な治療を試してみたが改善が見られなかった。そこで、脳のどの部分がうつ症状の引き金になっているのかを特定するため、うつ病と関係があるとされている複数の領域に10個の電極を埋め込んだ。男性は10日間入院し、医師らはその間ニューロンの活動を観察し、記録をつけた。

「これらの記録は、気分や感情の認知プロセスを制御する、その患者特有のネットワークをよく理解し、どこに問題があるのかを特定するのに役立ちました」と、シェス氏は言う。次に研究チームは、ポジティブな感情とネガティブな感情の制御に関わっているとされる部位に、一定の電気パルスを周期的に送り込んだ。

 すると、治療開始からわずか数日で男性はうつの症状が50%以上軽減したと報告した。22週が経過したとき、医師は男性のうつ病が寛解していると診断した。37週目以降、電気刺激を週に25%ずつ低下させ、最終的にはゼロにした。すると男性は、不安症状が少しずつ増し、気分が悪化したと訴えた。刺激を再開させると、症状は再び改善した。つまり、刺激を与えている間は気分が改善し、それを続けていれば寛解を維持できただろうということが示唆された。

 現在、男性患者は症状が改善し、充実した日々を送っているという。仕事を見つけ、人間関係もうまくいっているそうだ。

 その後、シェス氏のチームはさらに2人のうつ病患者に電極を埋め込んだ。「そのうち1人に関しては、最初の男性患者と比較して、感情を予測するパターンが全体的に少し異なっていることがわかりました」。3人目のデータは現在分析中だという。「このように患者一人ひとりに合わせた精密医療が、これから重要になってくると思います」

https://news.yahoo.co.jp/articles/9788d3156b0c2dc8ef9bb1ae6b16e16cd7436ddd?