結婚生活は「マイナスひとり暮らし」
21歳にして、勤務先の20歳年上の医師と結婚した医療事務の真理子さん。周囲には“玉の輿”“勝ち組”と呼ばれてうらやましがられたが、アスペルガー症候群の夫との生活で次第に「カサンドラ症候群」と呼ばれる抑うつ状態に陥っていく。幸福な妻はいかにして、カサンドラな妻になってしまったのかを前回記事で語ってもらった。

真理子さんは「アスペルガー症候群」の元夫との生活を「マイナスひとり暮らし」と表現した。

「ひとり暮らしの時に熱を出したりすると、孤独でみじめですよね。でも、元気なときは自分の時間を自由に使える、ひとりの解放感に浸れるという意味でプラスマイナスゼロです。

でも、アスペルガー症候群の元夫の生活はこちらの調子が悪くても全くいたわりがないのに、彼の都合だけは満たすことを求められる。私って何なんだろうとずっと考えていました」

真理子さんのことが好きでたまらなかった夫の様子が変わったのは、結婚してすぐだったと言う。

「彼は病院から呼び出しがあるのと、人と一緒だと眠れないということで、寝室は別になりました。そこに不満はありませんでしたが、新婚旅行の時からほとんど喋らず、私が話しかけても『うん』と『いいえ』くらいしか言わない。料理を作っても、おいしいとは言わず、黙って食べて部屋に入ってしまう。

私が何か怒らせてしまったのかと思って聞いてみたのですが、そんなことはないと。物の言い方もキツくなりました。近所の魚屋さんが『お嬢さんにサービス』と言っておまけをしてくれたんです。

家に帰ってその話をすると、『ここは高級住宅街で、古くから住んでいる人がほとんどだから、そういう人に比べたら若いのは当たり前』と言われました。私は単なる日常会話をしたかっただけなのに、ずけっと言われてしまって…」

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「私や私の家族のことをバカにするようなことを言うようになりました。お正月に彼の実家に集まったことがあったのですが、みんなの前で『ここにいる人の中で大学院を出ていないのは、真理子だけだね』と言って笑っていました。

確かに私は専門学校卒ですが、そんなことは最初からわかっているはず。それが嫌なら私と結婚しなければいいのに…。私の母は准看護師なのですが「中卒でしょ?」と何度も言われました。職場の上司が私のことを「よくがんばってくれている」とほめてくれたときは、後で『調子にのるなよ』と言われて怖かったです。

真理子さんが一番困ったのは、「夫に上書き機能がついていない」ことだったと言う。

夫は家事を真理子さんにやってほしいと専業主婦になることを望んだが、真理子さんは「子どもが生まれるまで」という条件で仕事を続けることにした。家事は真理子さんがやっていたが、帰宅途中の夫にコンビニで牛乳を買ってきてと頼んだところ、夫に怒られたと言う。

「僕に家事をやらせるのは契約違反だと言われました。その約束は覚えていますし、もちろん家事は私がやるつもりです。でも、この程度の頼み事もダメなんだ、例外はないんだなと思いました」

「“玉の輿”と言われていたので、不幸な自分は見せたくなかったです。仕方がないので母に話したのですが『暴力をふるわれているわけではない、オンナを作ったわけでもないのに文句を言うな』と逆に怒られました。

真理子さんは検診で、お腹の赤ちゃんが死亡していることを知らされた。

「産婦人科の先生は、私のせいではないと言ってくれました。でも、私は自分を責めました。私がちゃんと食べられなかったから、赤ちゃんに栄養が行かなかったのだと。そして、赤ちゃんの食べ物を奪った夫をはっきり憎みました」

後処置のために入院した真理子さんだが、ショッキングな光景を目にしてしまう。

退院して帰宅した真理子さんが自室で休んでいると、珍しく夫が真理子さんの寝室にやってきた。失われた幼い命を一緒に悼んでくれるのかと思ったが、夫は全く違う行動に出る。

「今日はテツの誕生日なんだよ」

テツとは、夫が実家で飼っていた犬の名前だ。

「テツの誕生日だから、一緒に歌おう」

夫は手を叩きながら、ハッピーバースデーを歌い出した。