「ちゃんと生きて、ちゃんと働いていれば、いつかは報われる」――と、大人たちが示す物語を、いまの若い人はあまり信じられなくなっている。

 私の周囲でも同じような状況になっている。ろくに仕事をせず燻ぶっている若者が幾人かいて、かれらは往々にして「どうにかして楽に大金が手に入る方法がないか」と“人生一発逆転”的な夢想にふけっている。そんなかれらに対して「ありえそうもない夢を見てないで真面目に汗して働け」と助言したときに「コツコツ働いたところで、なんだというのだ」と言い返される機会が、以前より増えている。

 その返答に対して、私は少々言葉に詰まる。

 というのも、この国の賃金がバブル崩壊以降ほとんど一貫して低下し続けたことは事実だからだ。1997年から現在に至るまで、時間当たりの賃金の伸び率がマイナスになっているのはOECD加盟国のなかでも日本だけだ。このような状況で「真面目に働いていればいいことがあるよ」と若い世代に伝えても「うそをつくな」と思われても無理はないのかもしれない。実際によくなっていないのだから。

 「今日よりも明日がきっとよくなる」という楽観的なナラティブに真実味を持てなくなってしまった社会こそが、「目の前に落ちてきた(違法行為であるため人生を棒に振るリスクが含まれた)一攫千金のチャンス」と「これから40年ぐらい働けば得られるかもしれないそれ以上のお金」を天秤にかけたとき、前者に傾く者を生み出してしまったのかもしれない。

https://news.yahoo.co.jp/articles/b8eda1009cab22f2fd01fae5845858c24c8e7898?page=2