<最低賃金法制化に冷淡>

現在欧州連合(EU)加盟国で最低賃金が法律で決まっていないのはイタリアなど6カ国にとどまる。中でもイタリアは、賃金が平均の60%未満という「ワーキングプア(働く貧困層)」の比率が最も高い国の一つだ。

それなのにEUが先週、最低賃金と労働搾取問題を対象とした共通ルールの策定指令を承認した際も、イタリア国内に歓迎ムードは乏しかった。

右派政党の支援を受けている多くの企業はコスト増大を懸念。労働組合は賃金交渉への介入を拒み、最低賃金を定めればそこまで実際の賃金が下がる恐れがあると主張する。

ボッコーニ大学のボエリ氏は労組の交渉力に疑問を呈し、団体交渉の場から数百万人の労働者が阻害されている現在のシステムは有効に作用していないと批判した。

経営者の間からは、最低所得保障制度に対する不満も聞こえてくる。イタリアの平均手取り給与の約25%に当たる毎月450ユーロ前後を失業者に支給するこの制度のため、失業者の採用が不可能になっているという。

経営者団体のトップは「若者に仕事を提供しようと思っても、手ごわい競争相手がいる。それが最低所得保障だ」と強調した。

経済学者のサラチェノ氏は、これがイタリアの苦境を端的に表していると指摘。「幾つかの企業は毎月500ユーロならそれなりの給与だと考えているわけで、ばかげている」とあきれかえった。

サラチェノ氏によると、事態を改善するには課税ベースを給与から家賃収入や資産に転換しつつ、長い視野に立った公共投資計画を開始する必要がある。折しも、EUが整備した新型コロナウイルスのパンデミックからの復興基金からイタリアは2026年までにおよそ2000億ユーロを受け取れるので、従来のように歳出を圧縮せず、逆に拡大しながらでも、改革策を採用できるはずだという。

ボエリ氏は、イタリアが優先すべき改革としてサービス産業の競争力向上と民事司法制度および行政機構の改善を挙げたが、今のところはほとんど進展がないとみている。「現在の挙国一致政府はイタリアが大幅に成長できるような改革を法制化しただろうか。残念ながらそうではない」と述べた。