円高も円安も「良い」「悪い」で論評されすぎ

 白川前日銀総裁は時事通信の最近のインタビューで、「円高も円安も『良い』『悪い』で評価する議論には違和感を覚える。
為替レートと金融政策を直接結び付けているように感じられるからだ」と述べていた。

 政策の前線で市場と戦った人物による、本質をついた発言であり、もっと広くマスコミ報道で取り上げられてもよかったように思う。
紙面の論調とかみ合わないのであまり報道が広がらなかったのではないかと、筆者は勘ぐっている。

 すでに述べた通り、庶民の生活苦につながる「悪い円安」を日銀はなんとかすべきだという主張は、
難点だらけである。筆者の見方を整理すると、以下のようになる。

◇為替相場のある特定の水準が日本経済にとって「良い」か「悪い」かの二分論的なレッテル貼りは危うい。
企業か家計か、企業の中でも大企業か中小企業かなど、経済主体によって、メリットとデメリットのバランスは異なる。

◇為替相場の変動が問題になるのは通常、その水準ではなく、変化スピードである。緩やかな水準シフトではなく、
あまりに急激に変化するようだと、企業の対応がすぐには追い付かない。

◇相場水準の急変動があった場合、それが一時的か不可逆的かの判断はなかなか難しい。
仮に、思惑的売買が加速した一時的な振れだと判断される場合には、通貨当局がG7(主要7カ国)などの
合意で認められているスムージングオペ(為替相場の一時的な急変動を落ち着かせるための介入)を
実行するケースも状況次第では想定されるものの、基本的には放置しておけばよい。

 これに対し、少なくともしばらくは元の相場水準には戻らない、ファンダメンタルズに沿った動きということなら、
企業をはじめとする経済主体が新たな為替相場の水準に、徐々に順応していく必要がある。

物価高騰の主因は「資源高」

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00122/00168/?P=2