ローマ人とイギリス人に安定した帝国の建設が可能だったのは、哲学的精神を欠き、イデオロギーに動ずることのなかった彼らが、隷属下においた民族にどんなイデオロギーも強制しなかったからである。彼らは管理者、Weltanschauungなき寄食者だった。だから、本当の意味での暴政はなかった。それにひきかえ偏狭なカトリシズムを身につけたスペイン人は、たちまちその帝国の崩壊に遭遇し、体系の精神を身につけ、それを哲学から政治へ移し替えたドイツ人は、ほんの数年にして挫折した。ロシア人の未来も同じことだ。イデオロギーは、膨張を阻害こそすれ、膨張には役に立たない。トルコ人が、かくも長いあいだヘゲモニーを握ったのは、服従した民族に、教義へのどんな賛同も、どんな信仰も、どんな深い同意も求めなかったからだ。独裁者にして懐疑家であることはむつかしい。だが、真の「支配者」をつくり上げるのは、この矛盾だ。