確かに1972年当初、肺結核の罹患率は現在の10倍を超えていて、また労働者の中で蔓延していたことからも、労働者に対して一律胸部X線で検査を行う意義は高かったかもしれません。
しかし、罹患率が10分の1以下になった今、同じ検査が本当に有効と言っていいのかには疑問が残ります。

 「いやいや、胸部X線で肺がんの早期発見ができるだろう」と思われる方もいるかもしれません。確かに、胸部X線をきっかけに肺がんの早期発見につながる人がいるのは間違いのない事実だと思います。

しかし、肺がんのスクリーニングとしての胸部X線についてはこれまで少なくとも6つの大規模ランダム化比較試験でその有用性が否定されており(Cancer 2000)、アメリカや欧州諸国では、肺がんのスクリーニング検査として胸部X線検査は推奨できない、としています。
かわりに、特定の年齢のリスクのある人に低線量肺CT検査を行うことが推奨されているのです。

 あるいは、心電図検査については、どうでしょうか。

 心電図検査では、心臓の壁が異常に厚くなっていないか、過去に心筋梗塞をやっていないか、不整脈の素因がないか、ということがわかります。
心電図検査の話をする際に、患者さんから「不整脈は見つかりましたか?」と聞かれることがありますが、心電図はその瞬間、数秒間の心臓の電気信号を検出するだけなので、残念ながら時々出るような不整脈はほとんど捉えることができません。

 1日1回以上出る動悸が不整脈によるものかを調べるには、例えば、24時間装着する「ホルター心電図」が必要になります。
あるいは将来的にはスマートウォッチがその役目を十分果たせるようになるかもしれません。また、あくまで電気信号の検査なので、弁膜症など、心臓の形の異常も捉えることはできません。このように、心電図検査もいくつもの限界がある検査なのです。

そして、この心電図検査についても、臨床試験において無症状のリスクの低い健常者に行うことに有用性が確認できず、アメリカや欧州諸国で「推奨できない」とされています(Ann Intern Med 2015)。
https://news.yahoo.co.jp/articles/f0b4eeb12d511d45d83e5f340ed2d23c7ada1707