>>209

そうして私は非常停止ボタンの近くにいてひ弱そうな男に声をかけた。

「おい!!お前今俺に臭いって言ったか?」

乗客はしどろもどろになって状況を掴めずにいる。
それも当然だ。
彼は何も言っていないのだから。

だが、煮え切らない態度で「あの」「その」を繰り返し、一向に非常停止ボタンを押す気配のない男に段々と本当に腹が立ってきた。

「おい!何言ってるかわからねえよ!!」
「はっきり喋れ!」
「臭いって言ったよな!?」

周囲の乗客がざわつき始める。

もう一押しと言わんばかりに襟首に掴みかかったが、それでも一向に非常停止ボタンを押す気配はない。

最近の若い奴はどうなっているんだ...。

後に弾けなくなったが、暴力を望んでいるわけではない私はこれ以上騒ぎを大きくする手段が他に思いつかず、最終的に自分で非常停止ボタンを押した。