https://gendai.ismedia.jp/articles/-/97659?page=1&imp=0

たとえば警視庁の場合、首相の警護に従事しても特別な手当がつくわけではない。捜査一課や鑑識課などと同じ、日額550円の「捜査等業務手当」がつく程度なので、SPだからといって必ずしも高給とはいえない。

またSPといえば、捜査一課と並んで不規則な勤務や長時間労働がよく知られている。警視庁に23年在籍し、主に公安部外事課でスパイ・テロ対策を担当していた「オオコシセキュリティコンサルタンツ(OSC)」の松丸俊彦氏が話す。

「統計があるわけではありませんが、『警護課は忙しすぎて家に帰れないので家庭崩壊し、離婚率が高い』と警察内ではいわれています。ですから、いざSPになったものの、他の部署に出てしまう人もいます」

交番のお巡りさんであろうが、白バイ隊員であろうが、SPであろうが、出世を目指す場合、同じ昇任試験を受けて合格すれば、階級は上がる。昇任試験に受かるかどうかは本人の努力次第であって、いくらSPが命懸けの激務だからといって、出世が早まることはない。勤務時間が長いSPは試験勉強する時間が限られる。そのためか、SPにとっての一番の出世は、警察署長ではなく、警護課長になることだという。

「経験豊かな人たちは指導的な立場に回り、デスクにつく。勤務割をつくったり急遽警護要請が来た際、SPを割り当てて派遣しています」(松丸氏)

先述の通り、SPになるには身体的な条件が設けられ、実際、身体能力の高いメンバーが集まっていることから、たしかに世間的には「SPはカッコいい」というイメージを持たれがちだ。


しかし、報酬もさほど多くなく、出世にも有利とはいえず、家庭が崩壊するほど仕事がハードなため、警察内でもいわゆる「花形の部署」とはされていない。

そもそもSPの場合、大事件の捜査を受け持つ捜査一課と違って、何をもって手柄を上げたと評価すればいいか、判断が難しい。たとえば警護している要人の命を危機一髪、救ったとしよう。しかし、そうした大ピンチの状況を招いたことが、SPの失策と見ることもできる。

「何かが起きたこと自体、どこかに問題があったわけです。問題が起こらなければ、SPは目立つことがありません。SPにとってはそれがいちばんいいことであって、結局、そうした中でモチベーションを保ち続けることが、SPの使命なのです」(元警察官で、映画やドラマなどの監修を行っている古谷謙一氏)