エリートなのに報われず悲惨…SPになるための「狭き門」

鋭い眼光に引き締まった体躯。スマートでカッコいいイメージが強いためか、SPは映画やドラマにもよく登場する。だが現実は違う。警護に失敗すれば一生のたうち苦しむ宿命の、過酷な仕事なのだ。

聴衆の視線を一身に集める「主役」に万が一の事態が起こらぬよう、絶えず周囲を注視する。もしもの時には代わりに撃たれてでも「主役」を守らなければならない―。

 7月8日に起きた安倍晋三元首相銃撃事件の結果、SP(セキュリティ・ポリス)をはじめとする警護態勢の不備が批判を集めている。

 SPとは警視庁警備部警護課に所属し、要人警護を専門とする警察官のこと。プロ中のプロともいうべきSPが安倍元首相の警護にあたっておきながら、最悪の結果を招いてしまった。

 元CIA要員で、要人や同僚の警護を専門にしていたデイナ・ベア氏の指摘は手厳しい。

 「アメリカのSPの場合、『暗殺は常に起きる』という前提で警護をしています。しかしながら事件映像を見たところ、現場からはそうした緊張感がまったく伝わってきませんでした。これは私の推測ですが、まさか銃撃事件が起こるなんて、100%ないと思っていたのではないでしょうか。

 安倍元首相に近づいてきた不審者がカバンから何かを取り出そうとしたら、私ならまず躊躇せず脚を狙って撃ちます。要人の警護に際しては、それぐらいの対応と覚悟が必要なのです」

 岸田文雄首相は7月14日の会見で警察の警備態勢に問題があったと発言。今後、国家公安委員会や警察庁による調査が進めば、ミスを犯したSPたちには厳しい処分が下されることになる。

 いかなる理由があるにせよ、警護の対象が総理大臣経験者ともなれば、失敗は絶対に許されないはずだった。
選ばれしエリートなのに

 そもそも、警視庁のSPになるためのハードルはかねて高く設定されてきたという。警視庁の元SPで、「身辺警護SP学院」副学院長の伊藤隆太氏が説明する。

 「SPになるには複数のルートがありますが、代表的なものとして、警察内部の警護講習を受けるという方法があります」

 ただし、受講を希望する警察官全員が警護講習を受けられるとは限らない。たとえば、巡査部長以上の階級者、柔道または剣道が三段以上の保有者、警察官の数十人に一人しか合格者がいない、けん銃操法の上級者であることなどが、受講の条件とされている。

 身体条件に関しては身長173センチ以上などといった一応の目安はあるが、1~2センチ低いからといって必ずしもダメということはないという。

 また、SPになる前の経歴は、機動隊員だったり警察署員だったりとさまざま。そこでの勤務評定なども含む総合的な考慮を経て、警護課員として相応しいと目された人のみが、警護講習受講の候補者として、所属長に推薦してもらえる。

 「その後、警護課で書類選考が行われます。それを通過した人が面接を受け、合格すれば警護講習を受けることができます。しかし、警護講習を修了したからといって、全員がSPになれるわけではありません」(伊藤氏)

 いくつもの狭き門を潜り抜けた、選び抜かれた一握りのエリートしかSPにはなれないわけだが、そうした苦労のわりに報酬や出世の面で報われているとは言い難い。

https://news.yahoo.co.jp/articles/76ed21a2360ef005305dbae54e93d838f40d49e5