真夏の太陽が照りつける中、鬼ヶ島を望む海上に、そのクルーザー「マーメイド号」は停泊していた。

ウッドデッキ状の甲板に、一人の男がいた。歳は三十五ぐらいだ。海水パンツだけを着けた裸体は傷だらけで、恥知らずなほど筋肉が発達している。風貌は荒削りだが彫りは深く、動物的なセックス・アッピールを感じる女もいるであろう。男の名は桃太郎といった。

桃太郎は、ドイツ製カール・ツァイスの双眼鏡をのぞき込み、鬼ヶ島の様子をうかがった。その名に似つかわしくない、モダンな鉄筋コンクリート製の豪邸が建っている。
偵察員の雉川が報告したとおり、警備会社へ通報するセキュリティ・システムはついていなかった。桃太郎は口の端を歪め、物凄い笑みを浮かべた。キャビンへ戻る。
そこには、ハンサムな若い男と、陽気な感じの三十歳ぐらいの男がいた。ハンサムな男の名は犬山、陽気な感じの男は猿田といった。

「雉川の言ったとおりだ、警備システムはついてないぜ。鬼のやつらは、自分たちが襲われるとは思ってもいないらしい」
桃太郎は悪魔のような笑みをたたえて言った。 
「じゃあ予定通り、今夜決行するんだな」

犬山は、愛用のガーバー・マグナム・ハンター・ハンティング・ナイフを砥ぎ棒で磨きながら、桃太郎のほうを見もせずに答えた。
そのナイフは、ハイ・スピード鋼に分厚いクローム・メッキが施され、太い有刺鉄線もバターを切るように両断できる。傭兵情報誌”ソールジャー・オブ・フォーチューン”を読んでいた猿田は顔を上げ、桃太郎に向かって右手の親指を立てて見せた。

「ああ、深夜十二時になったら襲撃を開始する。それまで時間はあるから、体力を養っておくとしようぜ」