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桃太郎は、業務用の巨大な冷蔵庫からボロニア・ソーセージの塊りを取り出すと、ヘンケルの牛刀で一キロほど切り取り、一人分ずつ切り分けた。玉ネギもスライスする。
それを、犬山がバターとマヨネーズを塗ったライ麦パンで挟み、サンドウィッチを作った。
パンの厚さよりソーセージの厚みのほうが数倍あるやつだ。

猿田はギルビーのウォッカの瓶の首をへし折ると、三つの大きなグラスに三分の一ずつ注ぎ込んだ。
そこに氷と少量のドライ・ヴェルモット、それに十滴ほどのアンゴラース・ビタースをぶちこみ、フォークで掻き回した。レモンの皮を放りこむ。

「サリュート!」
「チェリオ!」

三人は前祝いの乾杯をすると、喉を鳴らせながらウォッカ・マルテーニを飲んだ。一息に半分近くまで飲み干す。
それからサンドウィッチにかぶりついた。

旺盛な食欲でサンドウィッチを胃に送り込む。
桃太郎はパテック・フィリップスの金時計をのぞきこんだ。午後一時だ。
決行までの時間、交代で休息をとることにする。犬山に見張りを任せて、桃太郎は寝室のベッドにもぐり込んだ。

桃太郎は、自分の親を知らずに育った。生まれてすぐ両親に捨てられ、巨大な桃の実に入れて川に流されたのだ。
その身の上を不憫に思った老夫婦に育てられ、厳しかった養祖父から拳法の手ほどきを受けた桃太郎は、高校を卒業すると学費のかからない防衛大学校に進んだ。
在学中に養祖父母が死に、天涯孤独の身となった桃太郎は、防衛大を首席で卒業すると陸上自衛隊に任官し、レンジャー部隊に配属された。
過酷な訓練も桃太郎には喜びであった。そこで知り合ったのが犬山、猿田、雉川だ。