>>32
「陽子よ。お願い、殺さないで! 何でも答えるわ」
「この家に、ボディ・ガードの鬼は何人いる?」
「た、たしか今日は三人いるはずだわ。この部屋の向かいが詰所よ。いつも今ごろの時間は居眠りしているか、サボってエロ・ビデオでも見ているはずよ」
「ボスの鬼山の部屋はどこだ?」
「先生の部屋なら、二階の突き当りよ。今夜は愛人の涼子さんとお楽しみのはずだわ」
「金庫はどこにある?」
「先生の部屋の本棚に、秘密のスイッチがあるの。世界文学全集の、トルストイの『戦争と平和』の巻がスイッチよ。それを動かせば、本棚がスライドして金庫が出てくるはずだわ。でも、金庫のダイヤル番号は先生しか知らないわ。本当よ」
「そうか、ありがとう」

 必要な情報を聞き出した桃太郎は、陽子の頭をベレッタの銃身で殴って気絶させる。少なくともあと三時間は目を覚まさないであろう。廊下に出ると、向かいの部屋からわずかに灯りがもれていた。桃太郎はM16を構えると、ドアを蹴破る。部屋の中では、三人の若い鬼がソファに座って、半分眠ったような顔をしていた。突然の襲撃に、何が起こったのか理解できないでいるようだ。桃太郎はM16のセレクターを半自動にすると、一発ずつ撃鉄を絞って二秒で三人に5.56ミリ高速弾を浴びせた。眉間を撃ち抜かれ、後頭部の射出口から脳漿を噴出させた男たちは即死した。桃太郎は物凄い笑顔を浮かべた。

 階段を登って、鬼山の寝室に向かう。部屋の中からは女の喘ぎ声が聞こえていた。軍用の頑丈なブーツを履いた足で、ドアを蹴破る。

 電灯が煌々とついた部屋の中がよく見えた。二十畳ほどの広さがある部屋の中央には円形の回転ベッドが置かれ、ゆっくりと回転するその上で、でっぷりと太った六十歳ぐらいの赤鬼が仰向けになっていた。その腹の上には二十歳ぐらいの人間の娘がまたがり、忘我の表情で、腰を前後に動かし続けている。全身が汗に濡れ、長い黒髪が顔や乳房にまとわりついているのも気にしていないから、金だけの愛人関係ではあっても、相当な好き者には違いないようだ。赤鬼は娘の豊かな乳房に手を伸ばし、しゃにむに揉みしだいていた。桃太郎は欲情するより吐き気を覚えるほど、醜悪な光景であった。雉川が隠し撮りしてあった写真で鬼山の顔は確認していたが、この男に間違いなかった。