>>38
 鬼山は答えた。デタラメを言っているのでないことを確認するために、もう一度同じ番号を言わせる。

 金庫室が開いた。中は四畳半ほどの広さのウォークイン・クローゼット状になっている。桃太郎は中に入り、現金や貴金属を、バック・パックから取り出したザック袋に詰め込んでいく。猿田も手伝う。

 鬼山に短機関銃を突き付けて見張っている犬山の足下に、気絶から覚めた涼子が絡みついてきた。まだ下半身がマヒしているので、這いずりながらだ。

「ねえ、お願いだから殺さないで……私を自由にしていいから」
「生憎だが、今日は遊びにきたわけじゃないんでね。それに女には不自由していない」

 犬山は冷たくあしらい、軽く蹴飛ばして払いのけた。
「畜生、よくも恥をかかせてくれたわね」

 犬山はもう涼子の方を見もせず、冷酷な表情のまま鬼山の見張りを続けた。鬼山は苦痛に呻きながら、金庫室の方を睨んでいる。桃太郎と猿田が出てきた。両手にズック袋を下げている。桃太郎は、金庫室の棚にあったスウィス銀行の預金通帳を取ってきて、鬼山に見せた。

「こいつは貴様でないと現金を下ろせないそうだな。なら俺たちには不要の長物だ」

 桃太郎は不敵な笑みを浮かべると、通帳をビリビリに引き裂いた。残骸を灰皿に入れ、ジッポーのオイルライターで火をつける。数千万ドルの残高があるその通帳は、鬼山の目の前で炎を上げて燃えた。鬼山の目は飛び出しそうになったが、やがて白目をむくと、泡を吹いて倒れた。犬山が頸動脈に触ってみると、鼓動は止まっていた。ショックに心臓が耐えられなかったらしい。