ゲノム論文を不当切り張り 「先住民族でない」アイヌへのヘイト拡散


 ヘイトに立ち向かう科学者は、意外な所から現れた。固体物理学が専門の稲垣克彦・旭川医科大准教授は22年3月、「歴史修正主義者による先住民族史への干渉」などと題する論文を発表。アイヌ否定論者の言説を原典の論文と詳細に見比べ、学術成果を不当に引用する手口で本来とは逆の結論に改変している実態を明らかにした。

 「例えば引用箇所を数カ所省くだけで、縄文人とアイヌとの共通性の説明が、共通性がないように読めてしまう。原典まで調べる読者は少なく、悪質だ」

 稲垣さんは北大出身で、学生時代はアイヌ語も学んだ。専門外の分野に関わることにはためらいもあったが、「人権問題であり、科学者の一人として看過できない。科学のルールを逸脱している点に絞って反論することにした」と、本業と平行して作業を進めた。その上で「成果を歪曲(わいきょく)された専門の研究者は、見ないふりをしていいのか」と、科学者の社会的責任を問いかける。
https://mainichi.jp/articles/20220728/k00/00m/040/062000c