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 ユネスコの世界の記憶(いわゆる「世界記憶遺産」)にも登録されている『朝鮮王朝実録』だが、この歴史記録の豊富さが、韓国ドラマの時代劇がネタに困らないコンテンツ力につながっているとも言えよう。

 この「過去の実態へのこだわり」は、韓国の現代文化にも大きな影響を与えている。

 たとえば日韓両国の報道番組や政治家の発言でよく使われる単語の違いにも、「儒教道徳」の特徴が表れるのだ。

■儒教国家がこだわる「過去の真相究明」

 韓国の報道を見ていると「真相究明」という単語がやたらと登場する。

 何十年も前の事件にさかのぼって「真相究明が求められている」などとやっているのを見ると、「長い年月をかけて調査したあとに、いまさらどんな真相があるのだろう」と不思議に思ってしまうことも少なくない。

 これは、別に日本との間の歴史に絡む問題だけでなく、やれセウォル号事件の真相究明、やれ光州事件の真相究明、少し前ではバレーボール選手や芸能人の小学校時代や中学校時代のいじめ(人気ガールズユニット、セラフィムのガラムが最近の事例)などなど、過去にさかのぼった「真相究明」という単語が、それはそれは頻繁に出てくるのだ。

 たとえば韓国ドラマを観ていても、廃位した妃を何代もあとに復位させたりしていたことが見て取れるが、この伝統はいまも脈々と受け継がれている。

 北朝鮮でも金正恩(キム ジョン ウン)氏が金正日(キム ジョン イル)総書記の跡継ぎに決まると、本来は金正日総書記の「愛人」であったその母・高容姫(コ ヨン ヒ)の偉人化キャンペーンが行われ神格化が始まった。

 現代韓国政治を見ても少し前まで、左派政権が右派勢力の正統性を攻撃するために、いまになってかつての「親日派(戦前の植民地支配に協力した人々の意味)」の墓を掘り起こす法案を論議したり、何代もさかのぼって財産を没収したりする。

 韓国の儒教文化では、「過去にさかのぼった正義と正統性」が非常に重要なのである。

 韓国のメディアを見ていて気づくもうひとつの特徴的な表現が「道徳的優位性をとる」というものだ。

 この言葉がこれほどメディアで使われる国はない。私はいろんな国のニュースを聞いているが、「道徳的優位性を見せるために……」などと言っているのは韓国くらいだ。

 たとえば、2019年の半導体部品輸出規制をめぐる動きのときも、「韓国は冷静に対応し、道徳的優位性を示す必要がある」などという論調が存在した。