ショボい

> 雲行きが怪しくなったのは、新型コロナウイルスの蔓延だった。夫婦ともに在宅勤務となり、家で過ごす時間が増えた。

 「すると、妻の体調とメンタルが次第におかしくなっていったのです。住んだ当初は気にならなかったのですが、台風などが近づいて強風が吹いたり、地震があったりすると、タワマンの高層階はゆっくりとした横揺れが長く続くんです。これで妻が参ってしまった。

 近隣住民の生活音にも悩まされます。上の階と隣に子供がいる家庭が入っていて、足音や泣き声が聞こえてくる。在宅勤務中に聞こえる子供の騒音には、つい怒鳴り込みたくなる気持ちに駆られました」(中野さん)

 コロナ禍によって勤務先の業績が悪化し、二人のボーナスは大幅カット。ボーナスを当て込んだローン返済計画を立てていたため、生活はたちまち苦しくなった。

 「豊洲にある高級スーパーでの買い物も、週に1回の外食も、週末のスポーツクラブ通いも、すべて諦めて、生活費を節約しなくてはならなくなったのです」(中野さん)

 結局、中野さん夫婦はタワマン生活のストレスから些細なことでの言い争いが絶えなくなった。中野さんがコンビニで物を買うと妻から無駄遣いだと罵られ、妻がフリマアプリで中野さんがかつてプレゼントしたアクセサリーを売ったと知り、激昂した。夫婦仲は修復不能になり、今年になって離婚した。

 「妻は親にローンの残額を肩代わりしてもらい、実家に帰りました。私に残されたのは、5000万円を超える借金とタワマンでの空虚な暮らしです。会社の業績も上向かず、リストラ予備軍に数えられている気配も感じます。解雇されたらローンが返せなくなり、自己破産も視野に入るでしょう。タワマンを買ったくらいで成功者になったなどと自惚れた過去の自分が情けない」(中野さん)