「大麻中毒」にするためラーメンに混入も…タイの“解禁”、見切り発車感否めず

 タイ政府が6月に大麻を禁止薬物リストから除外し、“解禁”して間もなく3カ月となる。
スーパーや飲食店では大麻を使った飲み物や料理が提供され、観光客が訪れる街角には大麻を売る店が並ぶ。
世界的に医療用などで解禁が進む中、政府は大麻産業は「拡大が見込める」と強弁し、他国に先駆けて関連産業の拡充を急ぐが、
現地では不安も根強い。大麻が招くのは幸福か、それとも災禍か-。 (バンコク稲田二郎)
(中略)

経済立て直しへ反対押し切り合法化

 大麻解禁を巡っては「食欲増進や睡眠促進のほか、パーキンソン病やアルツハイマー病、がん患者の緩和ケアなどに有効」と唱える賛成派と、
「若年層の摂取は脳機能の低下を招き、薬物依存の危険性も深刻」と訴える反対派が真っ向から対立していた。
その中で政府が「合法化」に踏み切ったのは、新型コロナウイルスで落ち込んだ経済を立て直すためだ。

 タイでは2019年以降、医療用目的の食品など規制緩和を進めており、市場には大麻成分を含んだ商品が出回り始めていた。
今年6月の禁止薬物リスト除外により栽培も解禁され、大麻関連商品の市場規模は26年には150億バーツ(約580億円)に膨れ上がるとの指摘がある。

「中毒」にするためラーメンに混入

 ただ、思い切った政策によりトラブルが相次いだ。

 リスト除外の直後には、大麻を使った男性(51)が心不全で死亡。
初めて大麻クッキーを食べた地元テレビ局の男性アナウンサーは夜10時から翌朝5時まで泣き続ける事態に陥った。
過剰摂取によって16歳と17歳の少年が病院へかつぎこまれた。

 知らないうちに大麻を口にしていた人もいた。あるラーメン店では、店主が自らの料理の「中毒」になるよう、
客が知らない間に大麻成分を料理に入れて提供。食後に体調不良を訴える客が相次いだ。

問題次々、政府の見切り発車感否めず

 こうした事態を受け、保健省は6月14日に大麻使用を20歳以上に限定する省令を出したが、車の運転中の使用基準などは定められないまま。
大学の研究機関で大麻商品を検証したところ、多くの商品で、基準を超えるTHC成分が検出されたとの報告もある。

 大麻使用運転や勝手な混入を取り締まる法令は現在「制定に向けて調整中」(保健省)。
血液からTHCの摂取量を調べる検査機器がないなど、新たな問題も浮上しており、政府が見切り発車した感は否めない。

保健相「もう後戻りはできない」

 大麻解禁の中心的役割を担ったのは与党第2党「タイの誇り党」党首のアヌティン保健相。
党の支持基盤は開発が遅れた北東部で、アヌティン氏は、コメの価格低迷に苦しむ農家を救うため「(大麻栽培で)農業に別の選択肢を与える」と語る。
産業界からも要請があったとみられ、「合法化は医療と経済にプラス。もう後戻りはできない」と明言する。

 だが、大麻への批判的意見は根強い。チュラロンコン大(バンコク)などの医師ら有志グループは
「若者、とりわけ10代の乱用が懸念される」との声明を発表。
タイ国立開発行政研究院(NIDA)が6月に行った世論調査では、7割以上が子どもへの悪影響を心配している実態が明らかになった。

https://news.yahoo.co.jp/articles/6c66d87146c41a9540bce02d0bff9fa349309ba1?page=2