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「覚悟して来てください」突然の電話…息子亡くした母の願い

大分県日田市天瀬町で2018年に起きた交通事故で、高木博子さん(59)=福岡市西区=は、当時23歳だった次男の啓至(けいじ)さんを失った。以来4年、癒えぬ心と欠落感に向き合う中、交通事故ゼロを願って昨年、手記を自費出版。福岡市役所で開かれている「生命(いのち)のメッセージ展」には、啓至さんの等身大のパネルを出品した。「決して、事故の加害者にならないでほしい」の思いを込めて。 

 18年6月19日火曜、雨の朝だった。博子さんは、啓至さんが住んでいた日田市の病院から突然の電話を受けた。「覚悟して来てください」−。夫の久志さん(58)が運転する車で、福岡をすぐたった。バイクに乗っていてトラックに衝突され、心肺停止だった息子は、2人の到着直後に死亡が確認された。

 事故現場の国道は片側1車線のカーブで、当時、工事のため片側交互通行になっていた。加害者のトラック運転手は、目の前に止まっていた軽乗用車に直前まで気付かず、慌ててハンドルを切って中央線を越え、対向のバイクとぶつかった。啓至さんは約8メートル、飛ばされたという。

 翌年、大分地裁日田支部は自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の罪で禁錮3年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。行政処分は免許取り消し。ただ、再取得までの欠格期間はわずか1年だ。「罰が軽すぎるのではないか。人の命を奪っておいて」。久志さんの胸の悔しさが薄れることはない。

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 野球とバイクが好きな、口数の少ない優しい青年だった啓至さん。バイクは大学生の時、アルバイトのお金をこつこつためて買ったものだった。卒業後はドラッグストアチェーンで働きながら、警察の白バイ隊員を目指し勉強していた。

 病気がちの博子さんをいつも気にかけ、就職して最初の母の日には化粧水をプレゼントしてくれた。「僕が母を守らんといかんのよ」と周囲に話していたことを通夜の席で知った。博子さんはしばらく、ひたすら泣き暮らした。火曜に雨が降ると、「あの日」がよみがえる。親族や友人は「泣きよったら成仏せんよ」「前を向いて生きていこう」と声をかけてくれるが、そうした善意の言葉が、かえって遺族とそれ以外の人を隔ててしまうのを感じた。

 救いとなったのは、同じ境遇の交通事故遺族会との出会いだった。「世間が幸せムードに包まれるクリスマスや正月がつらい」「あいさつ代わりの何げない『元気?』に傷つく」。遺族同士だからこそわかり合える言葉に、少しずつ心がほぐれていった。

 交通事故で命を落とす人をゼロにしたいと、筆を執った手記「星になった啓至」。その最後、博子さんは「まっすぐ前を向く、スピードを出しすぎない、飲酒運転をしない、横断歩道では止まる。教習所で習った通りの運転をしてください」とメッセージを託した。

 福岡市役所ロビーには現在、等身大のパネルが立つ。めいっ子を慈しむように抱く写真の啓至さんは、ほほ笑んでいる。