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必死で物事に取り組む意味の「一生懸命」…

必死で物事に取り組む意味の「一生懸命」。この言葉は元来「一所懸命」と使っていた。中世の武士が所領を命懸けで守ったことに由来する

▼やがて戦乱のない江戸期以降「一所」が「一生」に置き換わった。明治の文豪夏目漱石も「坊っちゃん」で、兄からの手切れ金で学問を志す主人公の胸中を<三年間一生(・)懸命にやれば何か出来(でき)る>と記した

▼一度は変化を求めた天才も「一所懸命」の思いは断ち切れなかったか。サッカーのスペイン・バルセロナのメッシ選手だ。移籍の希望を一昨日の小欄で触れた。一転して残留を表明。ほっとしたファンも多かろう

▼専門メディアの記事によると、彼は契約解除権を持つと主張した。一方、クラブ会長は違約金約882億円の支払いを要求。裁判で争う道もあったが、自分に全てを与えてくれたクラブを相手に法廷には立てないと移籍を断念した。深いクラブ愛がにじむ

▼貧しくて、大好きなメッシ選手のユニホームを買えぬアフガニスタンの男の子がいた。縦じまのポリ袋で作った代用の服で球を追う姿を会員制交流サイト(SNS)で見たメッシ選手。すぐさまユニホームを届け対面も実現させた。そんな彼のことだ。「バルサのメッシ」に憧れる子どもたちの夢もくみ取ったはずだ

▼これからの彼に求められるのは結果。漱石の一文を借りれば<一年間一生懸命にやれば何か出来る>。天才の奮起に期待したい。