■うわべだけの中東民主化は失敗を避けられない

 イスラム世界のウラマーは本来ならば、テクノロジーに対応できる「テクノ・ウラマー」とでも呼ぶべき集団をもっているべきだった。そういう集団を実装しない限りイスラム世界は立ち直ることができず、表面的に西欧の民主社会をもち込もうとしても、結局はそれは根無し草に終わり、むしろ攘夷浪士のようなテロリストを生み出す結果だけを招いてしまうのである。

 こう考えると、現在の中東世界の混乱もよくわかる。つまりこの種の「テクノ・ウラマー」を育成してそれを中核にする以外、やはりイスラムは立ち直ることができないという理屈になるのだが、欧米のこれまでの中東政策はその根本をまったく理解せず、そういった方針を実行したこともない。

 そのため失敗するのは当たり前の話だったのであり、筆者はこれを踏まえていないうわべだけの中東の民主化は、今後もすべて失敗するであろうと断言してはばからない。

長沼 伸一郎 :物理学者