ティールは、近年の米国で見られる社会問題への意識の高まりを「ウォーク教」と侮蔑的に呼んでいる。それが現代政治を動かす力というよりは、社会全体を巻き込んだ転移行動だとみなしているからだ。とくにそれは稀少なリソースを奪い合うための手段になっていることが多い。

大学では学生の数は増加する一方だが、大学で教員の職に就ける人の数は減っており、その窮状が「人間の最悪な部分を引き出している」というわけだ。常軌を逸した新種のイデオロギーに見えるかもしれないが、実際には、多すぎる学者が、少なすぎる役職をめぐって争う残忍な学内政治だということなのか。

「そのとおりです。リソースの少ない世界でも、お互いが相手に対してもっと気持ちよく振る舞えるはずなのですけれどもね。どうすればそれが可能になるのか。それについて話をすることすらできていません」

実世界で進歩が停滞していることに気づく人がもっと増えれば、そのことについてもっと論じられ、対策を打てる可能性も出てくるという。だが、「スピードや超音速機、平均寿命の延伸」といった「計測可能な外面的なものを見る」価値観からの転換が起こり、「ヨガ、瞑想、心理学、超心理学、精神薬理学、幻覚剤、コンピュータゲーム、インターネットなどの内面性の世界」への価値観の移行が起きたせいで、「進歩が止まっているという現実から目が逸れて」しまっているという。

文化や政治に関するティールの発言の狙いは、こうした転移行動から決別し、もっと具体的な進歩を追い求め、社会全体に楽観主義がある状況を復活させることだ。だからこそ、彼の政治献金は、苦しむ米国の中流階級を物質面で支えようとする候補の選挙活動に向かうのだ。