【深層リポート】群馬発
群馬県や業界団体などが旗を振り「日本の温泉文化」の
国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産登録を目指す運動がいよいよ加速する。
約3千カ所の温泉がある日本は世界屈指の「温泉国」とされ、歴史の古さや希少性も指摘される。
登録を目指すライバルがひしめく中、その実現へとギアを上げる群馬発の運動の行方は-。
■全国区の運動へ
「登録に向けた取り組みを一層加速していく」。
9日、外遊先からオンライン会見に臨んだ同県の山本一太知事はこう強調した。
山本知事は、サウナ文化が遺産登録された北欧フィンランドで、ホンコネン科学・文化大臣と会談。
関連施設も視察して、それらの成果を海外から発信し、世界遺産登録を目指す本気度を示した。
群馬県は、自然湧出量日本一を誇る草津温泉(草津町)を有する「温泉県」。
平成30年、県温泉協会などが呼びかけ「温泉文化ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会」を発足し、
翌年、日本温泉協会が賛同して全国区の運動へと歩み出した。
新型コロナウイルス禍で運動は低迷したが、ウィズコロナの機運の高まりに伴い、
山本知事が6月、運動を本格化させると表明。
各県知事による応援団立ち上げや国会議員連盟の発足などに取り組み始めた。
議員連盟は既に首相経験者や自民党役員経験者ら大物国会議員の加盟が調整され、運動が一気に具体化してきた。
■心身癒やし回復効果
温泉文化の登録にはどんな意義があるのか。高崎商科大学の熊倉浩靖特任教授(日本古代史)は
温泉文化の保護だと訴える。
温泉は、海外では飲泉など医療行為の一環で利用されることが多いという。
しかし日本では、湯に浸り成分を身にしみ込ませる入浴作法が一般的で「世界的にも希少性が高い」と指摘。
文化面での独自性も高く「入浴により疲れた心身を癒やし回復させる営みは、
穢(けが)れを落としエネルギーを蓄える祭りの構造と同じで、日本文化といえる」と熊倉氏はいう。
だが、こうした温泉文化も人口減少に伴い先細りする可能性がある。
登録を急ぎ、今こそ保護に向けた手を打つべきだと熊倉氏は主張する。
業界内には、インバウンド(訪日観光客)誘客によりてこ入れしたいとの思いもある。
熊倉氏は「フィンランド独自のサウナ文化が登録されたように、
日本の温泉文化の希少性や消滅の危機感を訴えれば道が開ける」と話す。
■最短で令和8年
登録の目標時期は公式に示されていないが、令和8年の登録が最短となる。
まず政府による国内候補に選ばれる必要がある。
現状では4年に国内候補となった「伝統的酒造り」が6年にユネスコで審議される見通しだ。
国内候補選びは2年に1度のため「次回6年に国内候補になれば8年登録が見えてくる」と関係者。
ただ、書道などライバル勢も運動を活発化させており、6年の国内候補選定を目指すなら今年以降が正念場だ。
「できるだけ早く、最も実現しやすい道を考えていく」。山本知事はこう強調した。