英国のトラス首相が、9月の就任から1か月余りで窮地に立たされている。与党・保守党の党首選で公約に掲げた大型減税策が修正に追い込まれ、政権ナンバー2の財務相を解任した。
党内では早くも首相交代を模索する動きが出ている。

「私たちはこの嵐を乗り越えるだろう」。トラス氏は14日の記者会見でこう決意を示したが、表情は終始険しいままだった。
会見では、来年4月の法人税率引き上げの「凍結」断念と合わせ、政権中枢を担うクワシ・クワーテング財務相の更迭を発表した。
9月23日に総額450億ポンド(約7・5兆円)の大型減税を発表して以降、金融市場が混乱した責任を取らせた形だ。

 大型減税を巡っては、財源の裏付けがなかったことで英国債金利が急騰し、債券安、通貨安、株安の「トリプル安」を引き起こした。年金基金の資産が大幅に目減りするなど、国民生活に多大な影響を及ぼしている。

 減税策の撤回は、今月3日に所得税の最高税率引き下げを撤回したのに続く「失態」だ。「大型減税による経済成長」は政権の目玉政策だっただけに、会見では記者からトラス氏の責任を問う質問が相次いだ。
トラス氏は続投を表明した上で質問を早々に切り上げ、会見を一方的に打ち切った。

 トラス氏は今夏の党首選で勝利し、英史上3人目の女性首相となった。マーガレット・サッチャー元首相を信奉し、「鉄の女の再来」と評されたが、失態続きで求心力が急速に低下している。
更迭した財務相の後任を党首選のライバル陣営から起用するなど、不満が高まる党内の「融和」を演出せざるを得ない状況だ。

 民間調査会社ユーガブの世論調査によると、2019年の前回下院選での保守党支持者のうち62%が「党首選で間違った投票をした」と回答した。保守党内では、25年1月までに行われる次期下院選で大敗することへの危機感が強まっている。
14日付の英紙ザ・タイムズによると、党内では、トラス氏を辞任させ、党首選で敗れた2位と3位の候補のどちらかを後任に据えるための議論が水面下で始まっているという。
https://www.yomiuri.co.jp/world/20221016-OYT1T50041/