本作に対して プロからの完成された的確な批評がこちらになります

深町秋生・「天国の修羅たち」3刷さん @

『仮面ライダーBLACK SUN』を完走。正直ひどかった。大物世襲政治家たちを
ターゲットに選ぶ反骨心は歓迎したいが、そのセンセーショナリズムだけで
満足してしまったのか、登場人物たちの行動原理も「???」となることが
あまりにも多すぎた。

ハッタリ話が壮大であればあるほど、それを成立させるにはディテールの
積み重ねが大切なのは物語も詐欺話も一緒である(未だにM資金詐欺なんて
ホラが成立するのはそのディテールの積み重ねがキモだからだ)。
それを相当蔑ろにしたがために、穴と隙だらけの物語になってしまったと思う。
とても残念だ。

※思い切りネタバレするので注意してください。

2022年の令和の時代になっても怪人が「怪人」と呼ばれ続けるリアリティのなさ。
また人間の姿のままの怪人がバスに乗ると、「怪人が乗っている」と騒ぐ人間が
登場するのもよくわからない。
ローザ・パークス事件と当てはめたかったのだろうが、なんで即座に怪人と
見抜けるのかはわからないままだ。

「俺が守る!」と主人公がヒロイン少女に宣言した次の話で早々に少女が敵の手に
落ちて怪人に改造させられるのもまいる。
敵がずる賢く立ち回ったのではなく、主人公がボーッとしていたのと、
少女が勝手に暴走して稚拙な罠に引っかかったためだ。
このあたりで「このホン書いたのは誰だ!」と雄山ばりに。

少女の行動も謎だ。国連とのパイプで首相の祖父が人体実験していたことを
暴露して国に喧嘩を売り、「宣戦布告だ」と啖呵まで切ったわりには、
警官隊に攻め込まれまでした廃バスアジトで余裕で仮眠取ってたりする
(警官隊も二の矢三の矢で制圧しにこないのも謎)。イデオロギー云々以前の問題なのだ。

「異人」との共生や反発といったテーマなら、ゆうきまさみ「白暮のクロニクル」がある。
不死の吸血鬼を「おきなが」と呼び、おきながと国との歴史を重厚で緻密に描いてきたのに
対し、本作はリアル社会に当てはめるのに必死で、作品自体の掘り下げが足らなくなると
いう本末転倒な事態に陥ったと思う