自宅に設置しなかった驚きの理由

 また、光明日報のコラムニストである陳言(チェン・イェン)氏は、20年ほど前に京都にある京セラの本社で、稲盛氏をインタビューする機会があったのだという。

 陳氏は先に立ち寄ったショールームをのぞいて驚いた。創業者である稲盛氏の銅像も大きな写真もなく、展示物の説明文にも稲盛氏のことはあまり書かれていなかったからだ。

 さらに仰天することもあった。インタビュー中、京セラが当時販売していた太陽光発電パネルについて話が及び、「稲盛さんの自宅にはすでに設置されていますか」と聞いたところ、「置いていない」と回答があった。

 陳氏がびっくりしていると、稲盛氏は続けて「自宅の屋根が小さく、目の前の建物に太陽光がさえぎられるため、太陽光発電の設置が不可能なんです」と回答したという。陳氏は「こんな裕福な人が、日の当たらない家に住んでいるなんて」とびっくりする他なかったという。

 さらに今から数年前、今度は中国に来た稲盛氏に陳氏が話を聞いた。陳氏が「幸せとは何ですか」と尋ねたところ、「日曜日は夫婦で外食するのが常で、2人でスープに入った麺を1人前だけ注文し、それを二つに分けて半分ずつ食べることが多い。時にはぜいたくをして、野菜炒めを注文し、それも半分に割って食べると、幸せな気分になれるのだ」という回答があったという。

 それを聞いて陳氏は「幸せはお金で測れるものではなく、仕事や生活に追われる中で、時折、ほっとするような気持ちになることなのだと感じた」と回想している。

 稲盛氏が中国で評価されるのは、第一に実績、そして欧米式の経営との距離感が挙げられる。ただ、心からの敬意という点では、質素倹約をはじめとする稲盛氏のブレない人生哲学が中国人の心を打ったのだろう。

https://news.yahoo.co.jp/articles/26659001ae92bc1b938155ab34ed567442faf65d