三菱重工業(7011)が国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発を事実上凍結して2年が過ぎた。2020年10月30日に、「一旦立ち止まる」と独特の表現で明らかにし、国が機体の安全性を証明する「型式証明(TC)」の取得に必要な文書作成は続けるものの、飛行試験は中断。6度もの延期で2021年度以降としていた納期は、泉澤清次社長が「設定していない」と、この時点で未完の航空機になる可能性が高まっていた。

11月1日に発表した2022年4-9月期(23年3月期第2四半期)決算では、「SpaceJetの開発減速に係る偶発負債」に言及。「当社は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響を受けた民間航空機市場の不安定化等を踏まえ、SpaceJetの開発活動を減速することを2020年10月に公表した。これによりSpaceJetの量産初号機の引き渡し予定時期を見通すことは困難となり、これを受けた顧客等との協議の結果等により追加の負担が発生し、将来の財政状態及び経営成績に影響が生じる可能性がある」と、今後航空会社などとの話し合いによっては、違約金などの支払いが経営に影響する可能性に触れている。

一旦立ち止まって2年が過ぎたスペースジェットは、どうなっているのだろうか。

◆「丁寧に話をさせていただいている」

そもそも三菱重工は、スペースジェットの納入を諦めていないのだろうか。また、納入遅延などの補償を求められるリスクをどう考えているのか──。1日の決算会見で泉澤社長に訪ねたところ、「納入も含めて、今お客さまとは丁寧に話をさせていただいているので、今の段階でそういうリスクが発生する可能性は低いと思っている」と応じた。

米ワシントン州にあるスペースジェットの飛行試験拠点「モーゼスレイク・フライトテスト・センター(MFC)」は今年3月末で閉鎖。米国で試験を行っていた4機の飛行試験機のうち、3号機(登録記号JA23MJ)の日本国籍機としての登録は3月で抹消され、機体は解体された。この状況で、航空会社に引き渡せる機体が完成するとは考えにくい。

「現状は立ち止まった時から大きく変わっていない」と語る泉澤社長は、市場動向について「狭胴機(ナローボディー機)は戻ってきているが、リージョナルは少し遅れており、市場回復に時間が掛かっている」と述べた。

スペースジェットを取り巻く環境は2年前と変わっていない、という認識のようだ。

◆次期戦闘機開発に応用か

では、スペースジェットの開発によって生み出されて成果物はどうなっていくのだろうか。

TC取得に必要な書類作成について、泉澤社長は「立ち止まる時に作っていた文章、作りかけの文章があったが、そういったものはすべて対応して、次のステップに進める準備はしている」と説明する。

また、「設計ツールとか、シミュレーションツール、検証ツールを再整備をして色んな所に使えるように準備している。次期戦闘機などにも活用を検討していくことも進めており、作ったものは使えるようにしていく」と、航空自衛隊の次期戦闘機開発などに役立てたいという。

「やりたいという気持ちはあっても、マーケットがついてこない、機が熟していないと進められないので、相克の中で検討している」と泉澤社長は説明するが、経済産業省からこれまでに約500億円の補助金などが投じられており、引くに引けない状況とも言える。

https://news.yahoo.co.jp/articles/79363b3c735c50260ee717d3e46895e0c50fe226