「いい加減にしろ!」

 180センチ超の老紳士が空港でこう声を荒らげたのは、午後1時半過ぎのことだった。9月23日、往年の名投手・村田兆治(72)が逮捕された。

「村田氏は25日に行われる北海道でのプロ野球OBのイベントに参加予定でした。羽田空港の保安検査場で携帯電話を持ったままだったことから何度も金属探知機に引っ掛かり、女性検査員に激高。肩を突き飛ばして逮捕された。25日に釈放され、今後は在宅で捜査が続けられます」

「現役時代から『一匹狼』と呼ばれ、『偏屈な性格で監督向きではないからでは』とも囁かれています」(前出・スポーツ紙記者)

 現役時代はとにかく亭主関白で、家ではタテのものをヨコにもせず、「みかん」と言えば妻が皮をむき、筋まで取って差し出した。そんな夫に妻がつけた綽名が「昭和生まれの明治男」。結婚当初、妻の作った夕食が気に入らなかったため、ちゃぶ台をひっくり返して激高した、というのは良く知られたエピソードだ。

そんな村田だが、近年は孤独な生活を送っていたようだ。近隣住民が語る。

「息子さんも娘さんも独立され、奥さんの姿もここ何年も全く見かけません」

 自治会からも退会し、世田谷区内の高級住宅街にたたずむ延べ床面積160平米の豪邸に、村田はひとりで暮らしているという。

事件の背景には孤独と寂寥があったのか。釈放翌日、愛車でガレージから出てきた村田を直撃した。年季の入った左ハンドルのベンツを運転する村田。記者が近づくと窓を開けた。ジャージ姿で、目を合わせないようにしながらボソボソと話す姿には憔悴が滲む。

「捜査中だから何も答えられない。今回、先輩方とか後輩とか、いろんなところからメールが来て、涙が出るくらい、いろんな思いもあってね。ご勘弁下さい」

――奥様とは離れて?

「歳も歳ですから。介護の問題とか色々あるしね」