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2050年、ベトナム・ホーチミン市内のある小学校で歴史の授業が行われていた。

「さて、まずは前回のおさらいです。新型コロナウィルスの世界的流行前、ベトナムの海外派遣労働者が最も多く向かっていた国はどこでしょうか?」

 教壇に立っている教師がそのように問いかけると、子どもたちは元気よく「日本です!」と答えた。

「そうだね。2019年のベトナム人の海外派遣労働者数は14万7387人で国の目標値を大きく超えていました。その中でも特にこの数字を牽引したのが8万2人の労働者が派遣された日本です。
これは当時、日本が新しい在留資格を創設して、ベトナム人労働者に来てくださいと呼びかけたからですね」

 そのように説明を終えると、教師は神妙な顔となった。

「しかし、一方でこの時代の日本では、私たちベトナム人にとって決して忘れることができない深刻な人権侵害が増えていきます。みなさん手元のタブレットで映像を見てください。
ちょっと刺激が強いですが、これは当時、日本でもテレビなどで大きく報道されました」

 子どもたちがタブレットを起動すると、トラックの荷台で作業をしている男性が、ホウキで執拗に叩かれている映像が流れた。次の映像を再生すると今度は、
ベトナム人女性がインタビューに応えていた。早朝から午後10時過ぎまで働き、寝泊まりするのは二段ベッドが詰め込まれた窓のない部屋で、洗濯する暇もなく、
雨が続くと、濡れた服を着たまま作業をするという女性はこう述べた。

「家畜扱いされて一日中叱られています」

 静まり返った教室には「ひどい…」というつぶやきが漏れて、同情から女生徒のすすり泣く声も聞こえる。その様子を見渡して、教師が静かに語り始める

「19年には日本の劣悪な労働環境から8796人の外国人労働者が失踪していて、そのうちの6105人はベトナム人です。日本で心身を痛めつけられて帰国した労働者の中には、
いまだに心の傷を抱えており、社会復帰ができていない人も多くいます。しかし、日本側はこの問題の責任はないと主張しています」

 1人の男子が勢いよく立ち上がって、「ふざけんな!自分たちで来てくださいって呼んだんだろ!」と叫ぶ。子どもたちも頷くが、教師は力なく首を振る。

「人権侵害をしたのは会社であって国ではないと説明しています。当時の責任を追及しようにも、ベトナム人を暴行していた会社の多くは潰れていて、同僚も経営者もどこにいるのかわかりません。
しかも、日本国民の多くも、当時の技能実習生が被害を訴えるのは金目てだと取り合ってくれません。泣き寝入りするしかないのが現状です」

 こんな教育が、ベトナム中の教育現場で続けられたことで2050年現在、同国の「反日感情」は中国や韓国を上回るほど強いものとなってしまった。