プロレス、そして、プロレスラーという存在がどうしてこれほど人の心を揺さぶり続けるのか。その理由が心の底から分かった一夜限りのイベントだった。

 新日本プロレスの旗揚げ50周年を記念した音楽フェスティバル「シンニチイズム ミュージックフェス」(報知新聞社後援)が17日、東京・代々木第一体育館に6000人の観客を集めて行われた。

 3時間以上に及んだ大イベント。午後6時半、「初代ワールドプロレスリング」のテーマから始まり、スター選手たちの入場曲全40曲を新日50年の名場面とともに高中正義(69)、渡辺香津美(69)らトップミュージシャンが生演奏。

 大スクリーンに各選手の入場シーンや必殺技、名場面が映し出される中、名選手たちが次々とリングイン。試合会場の臨場感そのままの構成に声援が禁じられた場内には、観客の大きな拍手が鳴り続けた。

 午後9時半に迎えたクライマックスでは、新日の「エース」棚橋弘至(46)中心に10月1日に死去した新日の創設者で、元プロレスラー、元参院議員のアントニオ猪木さん(本名・猪木寛至、享年79)のリング上での名言の数々の映像が流された。

 さらに猪木さんのテーマ曲「炎のファイター~INOKI BOM―BA―YE~」が大トリの1曲として披露され、猪木さんの代表的フレーズ「1、2、3、ダーッ!」のかけ声で締めくくられた。

 感動のシーンの連続だったイベントの中、気がつくと、私の頬を涙が伝っていたシーンがあった。

 序盤の「レジェンドブロック」のトークコーナー。藤波辰爾(68)が「ドラゴン・スープレックス」、長州力(70)が「パワー・ホール」、武藤敬司(59)が「HOLD OUT」、蝶野正洋(59)が「FANTASTIC CITY」、「CRASH―戦慄―」というファン歓喜の入場曲の生演奏の中、花道を歩いて入場。田中ケロさん(63)の呼び込みコールのもとリングインすると、グータッチをかわした。

 用意されたパイプいすに対面の形で座った4人。その次の瞬間だった。藤波と長州が同時に天を見上げると、一拍置いて、武藤と蝶野が右手の人差し指を天高く突き上げた。

 そのアクションを合図に、大スクリーンに武藤と蝶野にとって、84年に新日に入団した同期で「闘魂三銃士」の盟友・橋本真也さんのありし日の勇姿が流され、ステージでは、05年に脳幹出血のため40歳で急逝した「破壊王」の入場曲「爆勝宣言」が大音量で生演奏された。

 10分間に限定されたトークコーナーでは、武藤が自身の入場曲「HOLD OUT」について「この曲は橋本に『ムトちゃんはハゲる~、どんどんハゲる~』って、替え歌作られちゃったからさ。本当は嫌なんだよ」と苦笑い。「でも、橋本ももう死んじゃったから今では一番、気に入ってますよ」と続けた。

 蝶野も「よく、あれだけ人を蹴れますよね。最低ですよ」と橋本さんの強烈なキックを振り返ると、藤波も「僕も橋本に蹴られて、シューズの跡がしばらく消えなかったね」と追随。最後に長州が「橋本はチンタだからさ」と、謎の言葉で締めくくった。

 レジェンド4人が笑顔で語り続ける裏話に、橋本さんが天国で微笑んでいる姿が私には目に見えるようだった。

 誰が言ったか。プロレスラーとは生き様だと―。ショッキングな死から17年経っても、そのキックの強さを、破天荒な性格を昨日のことのように語るレジェンドたちと、その在りし日の映像に涙するファンたち―。

 私もまた、今なお愛され続ける橋本真也というレスラーを決して忘れないし、武藤と蝶野が天高く突き上げた人差し指に込めた思いも絶対に忘れない。(記者コラム・中村 健吾)

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https://news.yahoo.co.jp/articles/63b7469bc080727da23dd116c9aef28ca95b31ce