https://news.yahoo.co.jp/articles/bd17b272ccdf0f559e5c2260b1dbb07c4d2032f9

NHK「受信料値下げ発表」も契約者数激減…問われる存在意義

NHKは、2022年10月26日に公表した「2022年度 第2四半期業務報告書」のなかで、同年4月〜9月の間に受信契約者の数が約19.8万件減少したことを明らかにしました。おりしもNHKは2023年10月からの受信料値下げを発表しており、このままだと大幅な収入減につながることが予想されます。受信料の強制徴収の制度、その根幹をなすNHKの存在意義自体が問われています。考えるべき問題点について整理して解説します。
NHKの存在意義に言及した最高裁判例
まず、NHKの他のマスメディアと異なる存在意義について言及した判例があるので紹介します( 最判平成29年(2017年)12月6日 )。
この事件は、NHKが受信契約を結ばない被告を相手取って受信料の支払いを請求したものです。主たる争点の一つとして、NHK受信料の強制徴収の制度( 放送法 64条1項)の合憲性が争われました。
判例の論旨はおおむね以下の通りです。
放送は国民の知る権利(憲法21条)を充足し、健全な民主主義の発達に寄与するものとして、国民に広く普及されるべきものである。
放送の不偏不党、真実、自律を保障することにより、放送による表現の自由を確保する必要がある。
そのために、「公共放送」と「民放」が互いに啓蒙しあい、欠点を補いあうことができるように、二本立ての体制がとられている。
NHKは「公共放送」であり、国家権力や、広告主等のスポンサーの意向に左右されず、民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体として性格づけられている。
したがって、放送法は、NHKが営利目的として業務を行うことや、スポンサー広告の放送をすることを禁じており(放送法20条4項、83条1項)、その代わりに、財源確保の手段として、受信料の制度が設けられている。
受信料の金額については毎事業年度の国会の承認を受けなければならず、受信契約の条項についても総務大臣の認可電波監理審議会への諮問を経なければならないなど、内容の適正性公平性が担保されているので、そのような受信契約を強制することは目的のため必要かつ合理的である。
判例が強調しているのは、NHKの「公共放送」としての特殊性です。公共性、非営利性、独立性、公正性が強く求められるということです。
それを達成するためには、国家権力や特定のスポンサーの意向に左右されることがあってはなりません。そこで、財政的基盤を確保する手段として、放送法に定める受信料の強制徴収という制度が必要かつ合理的だというのです。
なお、受信料の強制徴収については、国家の力を借りている面が否定できません。しかし、その点は、毎事業年度の国会の承認を受けなければならないこと、受信契約の条項についても総務大臣の認可を受けなければならないことなど、内容の適正性公平性が手続きによって担保されていることを理由に、正当化されています。
最高裁判例の射程と問題点
しかし、最高裁判決の論旨は、他の民放テレビ局との比較を念頭に置いている印象を強く受けます。これはやむを得ないことで、裁判所は司法府として、既存の法律の解釈適用が任務だからです。放送法が制定されたのは1950年であり、マスメディアといえば新聞、ラジオ、テレビくらいしかありませんでした。
問題は、当時の論理が現在でもあてはまるか、すなわち、受信料強制徴収制度の基礎となる、NHKの「公共放送」としての特殊な役割が求められているかということです。
NHKの存在意義はどう変わったか?
一つの考え方として、現在のように、テレビ以外にも多様な媒体メディアがあり多チャンネル化IT化が著しく進んだ時代においては、公共放送の役割は相対化希薄化しているということも可能でしょう。
これに対し、逆の考え方も可能です。すなわち、今日では誰でも情報を発信受信でき、しかも、大量の情報がやりとりされ、誤った情報も瞬時に広まるので、独立性公正性の強い公共放送の役割が以前にもまして求められていると考えることもできます。
しかし、いずれにしても、現在、公共放送としてのNHKが存在している以上、NHKに求められるのは、強度の独立性公正性です。その前提が失われてしまえば、NHKの存在意義はなく、強制徴収制度の正当性も認められないということです。
NHKの受信契約数が激減した背景には、NHKが、これまでクレームが多く評判が悪かった戸別訪問をやめ、契約書類を郵送するなどのソフトな営業活動に切り替えているということがあります。単純に「メディアが多様化して存在意義を感じない人が増えた」ということはできません。