「コタツ記事」を重宝するWebメディアの大迷走
「取材なき記事」や「ネタの盗用」が許される理由

https://toyokeizai.net/articles/-/408372

人々が情報収集や娯楽のためにネットニュースを見るのは、今や当たり前の習慣となった。しかし、ネットニュースの編集者として15年近く働いてきた自分としては、現在の盛り上がりに戸惑いと不安を覚える。

私は2021年1月31日をもって、編集の仕事から身を引いた。これまで身を粉にして、NEWSポストセブンやAbemaTIMESなど複数のネットニュースメディアで約12万本の記事を制作した。それだけ愛着を持てる仕事だったのだろう。しかし、ある時から編集者として働くのがつらくなってしまい、今後は外部の書き手としてのみ関わろうという考えに至った。

2019年には、いよいよテレビの広告費をネットが抜き、ネットニュース全盛時代が訪れようとしている。にもかかわらず、なぜ私がその可能性に懐疑的なのか。今、「ネットニュース業界が抱える問題」を3つに分けて解説したい。

「ネットニュース」が抱える3つの問題
【問題その1:粗製乱造される「コタツ記事」】
そもそも無料の読者を相手とするニュースメディアは、どこから利益を得ているのか? 多くのメディアは「PV(ページビュー)」、つまり読者にクリックされた数をもとに試算される広告費を頼りにしている。

PVを稼ぐためには、丁寧に取材した良質な記事を発信し続ければいい……というわけではない。メディアの大小に限らず、ここ数年、取材をしない「コタツ記事」が量産されている。

記事の代表的なパターンは、テレビやTwitter、ブログ、ラジオなどから有名人の発言や、ネット上の反応を抜粋し、まとめたものだ。そこには「○○氏が『××』と発言し賛否両論の議論に」といった具合に興味を引くタイトルがつけられる。

有名人の発言が炎上したり、なにか事件を起こした日には、必ずと言っていいほど多くのメディアがそれに追従して記事を作るのが現状である。

筆者はこのパターンの元祖は、2008年に大バッシングを受けた歌手の倖田來未氏による、ラジオ番組での「35歳で羊水は腐る発言」にあるとみている。当時、この発言を複数のネットニュースが報じた結果、人気歌手だった彼女は活動自粛にまで追い込まれた。

おそらく、これまでにないPVを稼いだメディアもあったはず。以降、「有名人の失言は儲かる!」という意識が出てきたのか、特に取材もない、有名人の発言とネット上の感想だけをまとめた記事が量産されるようになった。

最近だと同じくラジオ番組での発言だが、ナインティナインの岡村隆史氏が「美人さんが風俗嬢をやります」と発言し、批判を集めた。もちろん、この時も各メディアがこぞって記事にした。

かつて、メディア業界では取材をしない「コタツ記事」は恥ずかしいものとされていた。ところが、今や貴重なドル箱になってしまった。

何しろ、コタツ記事は読まれる。転載先であるYahoo!ニュースのアクセスランキング上位に来るものも多い。そりゃそうだ、「有名人」の「過激な発言」をあえて選んでいるのだから。

コタツ記事を作るメディアが定期的に記事にする「PVを稼いでくれる有名人」は、たとえば以下の人たちである。実際にネットでその名を目にした読者も多いはずだ。

タレント枠:EXIT、岡村隆史、おぎやはぎ、GACKT、加藤浩次、指原莉乃、立川志らく、デヴィ夫人、松本人志など

コメンテーター・ご意見番枠:青木理、石野卓球、乙武洋匡、高須克弥、杉村太蔵、デーブ・スペクター、テリー伊藤、西村博之、橋下徹、東国原英夫、百田尚樹、古市憲寿、堀江貴文、三浦瑠麗など

スポーツ枠:張本勲、ダルビッシュ有など

コロナ枠:岡田晴恵、各医師会会長、玉川徹など

※50音順、文中敬称略
ほかにも様々な有名人の言動が記事化されているが、もはやコタツ記事を量産するメディアにとって、「ウォッチすべき番組」や「ウォッチすべき人物」は固定されている。

とりあえずワイドショーのコメンテーターや、Twitterで過激な発言が目立つ有名人の発言を正確にメモして、SNSで騒動になった直後に記事化すれば、大量にPVを稼げる。うまくいけば1本の記事で百万円単位の儲けが出ることもある。

さらに記事にかかる費用は、数千円から?1万円程度の原稿料のみ。儲けを優先するならば、これをやらない手はない。結果、ネットニュース業界はコタツ記事だらけになってしまった。

イカソース