中南米で影響力を増す中国 米国は対抗できず

米政府はこうした言い方を嫌うかもしれないが、米国が長年にわたり中南米で覇権を自由に行使してきたことは否定しようがない。だが今、それに挑戦する国が現れている。アジア地域でも米国と対峙(たいじ)している中国だ。

中国の試みはすべてが順調にいっているわけではないものの、中南米地域での影響力強化の成功例は驚くほど多い。そして、米国はそれに対して十分な対抗策を講じられていない。

始まりは20年以上前、中国が2001年に世界貿易機関(WTO)に加入した直後のことだ。中南米地域との貿易は年間平均31%増という急激なペースで拡大し、年間貿易額は約4500億ドル(約62兆円)となった。

中国は現在、南米では最大、中南米全体では米国に次ぐ2番目の貿易相手国だ。これまでにチリ、コスタリカ、ペルーの3カ国と自由貿易協定を結び、昨年2月にはエクアドルと交渉を始めている。

中国は、中南米諸国でダムや港、鉄道の建設や、太陽光や風力発電のプロジェクトに投資。その主な例としては、アルゼンチン・フフイ州にある中南米最大の太陽光発電所がある。

中国の経済面での主な関心は、原材料にあるようだ。中南米からの輸入品は、大豆、銅、石油、ウランなどが大半を占める。電池に使うリチウムについては、世界の埋蔵量の半分以上が集中する「リチウム・トライアングル」と呼ばれるボリビア、アルゼンチン、チリの3カ国やメキシコからの輸入量を大幅に増やしている。

さらに中国は、中南米地域に軍需品や軍事訓練の市場を見出している。軍隊の駐留や基地の設置には至っていないようだが、2009~19年にはベネズエラやボリビア、エクアドルに対し、航空機や防空レーダー、小火器など1億6500万ドル(約230億円)相当の軍需品を輸出した。また、警察向けの装備品も各国に輸出している。

習近平国家主席は2013年の就任以降、中南米を11回訪問。他国と結ぶ外交関係としては最高の戦略パートナーシップ協定をアルゼンチン、ブラジル、チリ、エクアドル、メキシコ、ペルー、ベネズエラの7カ国と結んだ。中国は台湾の孤立も目指しており、台湾を中国の一部として認めない国については、貿易や投資を拒否している。約20年前は中南米の全ての国が台湾の主権を認めていたが、中国の圧力が功を奏し、現在は8カ国のみとなった。

中国が米国の中南米地域での覇権を覆すにはさらに多くの努力が必要だろう。そのプロセスがすでに始まっていることは明らかだが、米政権は対抗策をほとんど取ってこなかった。トランプ前大統領は、中国の台頭を明らかに懸念していたのにもかかわらず、中南米にはほぼ関心を見せなかった。

一方のバイデン大統領は、オバマ政権で副大統領を務めていた際に中南米政策を率いており、中国がもたらす課題を認めこそはしたが、具体的な措置はほとんど取っていない。米政権の外交政策では、中南米の貿易や開発、投資について言及されることさえもまれだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/43d9ac0c935d7b51ed3f2171bb727ec389148914