https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-63831677

中国で若者たちがデモを先導、その動機は

中国で先週末、新しい世代が誕生した。その多くが、公共の場での抗議デモに初めて参加した人たちだった。
彼らは街中に出て、もう3年近く続いている「ゼロコロナ」政策からの解放を訴えた。
上海でのデモは初め、静かだった。参加者は新疆のアパート火災の犠牲者を追悼するために集まっていた。多くの人が、新型コロナウイルス対策が炎からの脱出を妨げたと信じていた。
警察の厳重な警備の中で人々は死を悼んだ。白紙を掲げ、花を捧げ、沈黙していた。
こうした中で、一部の参加者が叫びだした。
「自由を! 我々は自由を求めている! ロックダウンを止めろ!」
夜が更けるにつれ、群衆は大きく、大胆になっていった。27日午前3時には、人々は「習近平は辞任しろ!」と合唱した。
20代前半だという男性は、人々の声を聴いて部屋から飛び出してきたと語った。
BBCの取材に対してこの若者は、「インターネット上でたくさんの人が怒っているのを目にしていたが、抗議のために街に出る人は今までいなかった」と話した。
歴史的な瞬間だと感じたこの場面を撮影するため、この男性はカメラを持ってきていた。
「警察も、学生も、高齢者も、たくさんの人がいる。それぞれ意見は違うが、少なくとも声を上げられる」
「この集会には意味がある。自分にとっても大切な記憶になると思う」
群衆の脇にいた若い女性は、これはスリリングだが、はかない瞬間だと感じたと話した。
「中国でこんな光景は見たことがなかった」
「ちょっとほっとしている。私たちはやっと、長い間言いたかったことを言うために一つになれた」
ゼロコロナ政策によって、人生の一番いい時間を奪われたと、この女性は語った。彼女の世代は収入源や教育の機会を奪われ、旅行もできなかった。時にはロックダウンで数カ月にわたって閉じ込められ、家族と離れ離れになったり、人生の計画を遅らせたり諦めざるをえなかったりした。
若者たちは、ひどい苦痛の中で「怒りと悲しみ、そして絶望」を覚えていた。
この週末には、同じような訴えが中国各地の大都市でも聞かれた。北京の清華大学では、インターネットで見た抗議デモに感化された学生たちが集会を開いた。
SNSなどで拡散されているある動画では、女性が拡声器で、早口で恐る恐る話している。やがてこの女性は泣いてしまったが、群衆は「怖がらないで! 続けて!」と促した。
「批判を恐れて声を上げないのでは、国民に失望されると思う」とこの女性は声を荒げた。
「そうなったら清華大学の学生として、永遠に後悔してしまう」
知識があるのか、浅はかなのか
ここ数十年間見ることのなかった政治デモは、年齢層の高い人たちに、1989年の天安門事件を思い出させている。この事件も、自由を求めた学生たちが起こしたものだった。
一方で、若い世代のこの熱量は、天安門事件が犠牲を伴う弾圧によって終わったことを知らないからこそだ、と指摘する声もある。
人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチの中国調査員、王亜秋氏は、「若者ならではの理想主義、つまりつらい記憶がないからこそ恐れ知らずになれるのが合わさって、若者たちは街頭に立って自分たちの権利を要求している」と指摘した。
抗議参加者を過小評価していると指摘する声もある。オーストラリア国立大学の政治学者、宋文笛氏は、「抗議者の若さが、彼らが中国の制度やルールにどれだけ慣れているかを見えなくしている」と言う。
宋氏は、若者たちがいかに「戦術的に巧妙」かを見て驚嘆していると話し、現在の若い抗議者たちは「中国でも最も教育された世代」だと述べた。
「抗議者たちは越えてはいけない一線がどこにあるか、分かっている。その一線を越えないまま、限界に挑戦している」
上海の抗議では、習国家主席の退任を求める声が上がった。しかしその他のほとんどの集会では、政治的すぎると思われる要求は、口にしていない。
証拠にされる文言を避けた結果、白紙が抗議のシンボルになった。警察に「ゼロコロナ政策を止めろ」と言わないよう指示されると、参加者たちは皮肉を込めて、検査と規制を強化しろと合唱した。
宋氏は、「中国政府からの非難を最低限にするために、若者たちがいかに先手を打ってあらゆる事態に対応しようとしているか、注目してほしい」と語った。
デモ参加者たちはまた、自分たちのメッセージをねじ曲げようとする声にも、警戒していた。
北京では、ある男性が「外国勢力」について警告を発した時、周囲から「外国って、それはマルクスやエンゲルスのことか? スターリンか? レーニンか?」とからかわれていた。
中国共産党は、マルクス主義を模範のイデオロギーとしている。