https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20221025-00320598

管楽器を吹いても「肺活量」は増えない

よく歌手や管楽器奏者は、「肺活量が多い」と言われますが、実はこの言い方には語弊があります。呼吸器内科医から見た、「肺活量」について書きたいと思います。

「肺活量」とは
さて、みなさん。思い切り吸ったところで息を止めてください。そこから急速にハーっと息を吐いて、吐けるところまで吐いてください。

この一連の動作で、肺の中から出て行った空気の量の合計が「肺活量」と定義されています(図1)。私たちは、横隔膜や肋間筋といった筋肉をうまく使って、実は外から肺を動かしているに過ぎず、実は肺そのものを動かせるわけではありません。
肺活量はほとんど増やすことができない
実は、トレーニングを積めば、肺が膨らみやすくなるわけではありません。肺活量は、胸郭という肺が入った空間を支える骨格で決まっているため、トレーニングしても大きく肺活量を変えることはできないのです(1,2)。

むしろ、肺の成長が終わった直後から、年齢とともに肺活量は徐々に減っていきます
意外なことに、歌手や管楽器奏者の肺機能を調べても、一般の人と比べて肺活量が優れているということはありません(3-5)。彼らは、肺活量が多いわけではなく、息の使い方が上手なのです。

体格が変わるほど筋トレすれば少し増える
しかし、いくつか例外があります。ウェイトリフティングなど、体格が変わるほど筋トレすれば、呼吸筋トレーニングの効果によって、少し肺活量が増えます(6)。

その他、肺の病気を持っている人が、運動療法によって元も肺活量を取り戻すという意味での肺活量増加もありえます(7,8)。そのため、呼吸器の病気を持っている人は、呼吸リハビリテーションの一環で呼吸筋トレーニングを行うことが多いです。
歌手や管楽器奏者は、肺の健康に気を遣っている人が多いため、喫煙者の割合が低いです。肺の病気にかかりにくいことから、「歌手や管楽器奏者は肺活量が多い」という都市伝説が誕生したのかもしれません。彼らの肺活量は決して多いわけではなく、「息の使い方が上手」だと考えられます。

呼吸生理学的に肺活量を鍛えることは難しいのですが、そもそも肺機能のパラメータの1つである肺活量にこだわる必要はありません。

とはいえ、肺を使った運動をするほうが健康的であることは確かなので、コロナ禍でなまった身体をしっかりと使ってあげましょう。