https://news.yahoo.co.jp/articles/65442249fe47f1e81318c4eaec61519b4a41663b

■「人間じゃない」

 「この船に乗ったらあなたはロボット。人間じゃない。働け働け」

 兵庫県北部の漁協に所属する漁船に乗っていたインドネシア出身のモハマッドさん(27)=仮名=は当時、船長から同じ暴言を何度も浴びせられていた。
船員にはヘルメットの上から頭を殴られた。

 モハマッドさんによると、正月とゴールデンウイーク以外に固定の休みはほぼなく、天候に合わせて呼び出され、3日~2週間の漁へ。
眠る間もなく作業が続くこともあり、1日休んで翌日には呼び出された。

 日本人乗組員の年収は1千万円以上と聞いたが、実習生の給料は月10万円ほどだった。食事も喉を通らなくなり、来日前より体重が20キロ減った。
相談できる日本人はいなかった。「もう無理」と2022年9月、リュック1個を持って飛び出した。

■「人間らしく扱ってほしい」

 モハマッドさんは17年7月に来日した。母国の水産高校を卒業して国内外で出稼ぎをし、月3万円ほどを得ていたが、
友人から「日本の方がお金が稼げる」と聞き、「車や家が欲しい。起業して成功したい」と夢を描いた。

 実習期間の3年間、仕打ちに耐えて献身的に働き、4年目以降も活動できる3号の資格を得た。
20年7月に一度帰国した後、新型コロナウイルス禍による入国制限を経て、22年4月に再来日。
職場は同じ漁船で、給料は少し上がったが、網直しなど雑務を任され、労働時間が増えた。

 失踪後に頼ったのは、北関東に住む高校時代の友人だった。
その後、支援者からの紹介で、神戸市長田区の国際協力団体「PHD協会」が運営するシェアハウス「みんなのいえ」に。
今は新たな実習先が見つかり、再出発を果たした。

 モハマッドさんは「私たちは人間です。人間らしく扱ってほしい」と声を振り絞った。

■「そこでしか学べない技術ほとんどない」

 外国人が働きながら技術を学ぶ外国人技能実習制度は、発展途上国の人材育成を主な目的とする。
だが失踪した実習生は「そこでしか学べない技術はほとんどない」と口をそろえる。

 実態は人手不足を補う労働力として扱われるケースが多く、失踪者は後を絶たない。
出入国在留管理庁によると、21年に国内で失踪した実習生は前年比2割増の約7千人。
国は制度見直しに向け22年内にも有識者会議を設置すると決めた。

 5年前には、同制度の適正な実施と技能実習生の保護を図る「外国人技能実習機構」が設立された。
企業や監理団体への実地検査、実習生からの相談受け付けや保護を担うとしたが、モハマッドさんは機構の電話番号も知らなかった。