ウクライナでは欧州、中東諸国、インドが農地争奪戦を展開。極東ロシアでは韓国が国ぐるみで巨大農場を建設。アフリカでは中国が密かに農地を囲い込みます。将来の食料不安に備え農地を獲得すべく各国が入り乱れて『ランドラッシュ』を繰り広げます。『新植民地主義』と呼ばれて。

それは、異様な光景でした。旧ソビエト連邦・ウクライナ。世界一肥沃と言われる大地に恵まれながら、ソ連崩壊後の混乱で、広大な農地が放棄されているのでした。その農地をイギリス企業が片っ端から借り集めているのです。2008年の夏。すでに12万如東京都の半分以上にあたる土地を確保し、なおも拡大し続けて。

大地をえぐる大型トラクターが目の前を過ぎ、土煙が立つ、と、その向こうに現れたのは、迷彩服の兵士でした。肩に自動小銃を掛け、こちらに向かって来ます。なぜ、兵士が?

彼らはイギリス企業が雇った傭兵でした。24時間、農地を監視すると言います。『マフィアが来てこう言うんです。「農地をよこせ。種もトラクターも全部置いて出て行け。逆らえば殺す」ってね』。こう語るのは、農地を管理するランドコム社のCEO、リチャード・スピンクスさん。イギリス空軍の出身という異色の経歴を持つ42歳。猛禽類を思わせる鋭い眼です。

『「出て行け」と言われて、「わかりました」とはいかない。すでに莫大な投資をしているから。あのスプリンクラーだって、何十年も壊れたままだった。それを我が社が修理した。マフィアの連中、修理が終わったころを見計らって現れる』。マフィアには、『こう言ってやった。「OK、話は分かった。だが投資をムダには出来ない。だから、私が先にあなたを殺す。我が社には60人の傭兵がいる。傭兵はあなたの家族のところへも行く。そして、私はここでビジネスを続ける」。そしたら、連中はおとなしく帰って行った』。そう言い終えてスピンクスさんは、手に入れたばかりの畑の土をつまみ、口に入れました。『うん、いい土だ』。

スピンクスさんは、イギリス陸軍などから900人近くの兵士を雇い、ウクライナに連れてきていました。ウクライナの農民は雇わないか、との質問に『彼らのほとんどはアルコール依存症で、使い物にならない。でも、少しは雇っている。健康な人もいるから。しかし、彼らはよく盗む。種を持ち出したり、燃料をこそっり抜き取って売ってしまう。彼らを監視する必要もある』。

ランドコム社は、世界的な穀物価格の高騰を追い風に莫大な利益を上げ、農業ビジネスの成功例として注目を浴びていました。しかし、その『優良企業』の現場には軍人上がりの外国人経営者と自動小銃で武装した傭兵と、まるで犯罪者のような扱いを受けて働く地元農民の姿がありました。そして、このウクライナでは、ランドコム社のみならず、ヨーロッパを中心とした20カ国もの企業が農地を次々と獲得しています。

これらの国々の世界各国での農地獲得競争は、リーマンショックをもろともせず、その後も拡大の勢いは衰えません。2009年4月、『国債食料研究所IFPRI』は、『外国による途上国での農地争奪』というリポートを発表しました。

その中でIFPRIは、『土地や水が不足し、しかも資金が豊富な食料輸入国、たとえば湾岸諸国は海外農地への投資にもっとも積極的である。また、多くの人口を抱え、食料安全保障の面で懸念を赤得る国々も、海外での食料生産のチャンスを欲しがっている』として、サウジアラビア、カタール、リビア、中国、韓国、インドなど20カ国が食料確保のために広大な農地を海外で入手した、と指摘しました。

さらにリポートは『こうした国々の投資の矛先は、生産コストがはるかに安く、土地と水が豊富な途上国に向けられている』とし、スーダン、エチオピア、パキスタン、フィリピン、カンボジア、トルコ、ウクライナなど24カ国を挙げています。
(参考:『ランドラッシュ』NHK食料危機取材班著 新潮社刊)

これらの国々は国際穀物相場に左右されず、直接海外農地で生産する食料をダイレクトに持ち帰る、という『新しい植民地スタイル=新植民地主義』ともいえる動きが世界を縦横に走っています。特に中国は『なりふりをかまわない強奪的な農地獲得』が目立ち、世界の農業戦争を過激に追い込んでいます。尖閣諸島、南シナ海の領土強奪ともいえる強硬路線は、はるかかなたのアフリカでも違った形で展開されています。恐ろしや、中国、ですねえ。