母に暴言「何で産んだ」 説明なく10歳で手術、結婚も諦めた
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街中に流れる陽気なクリスマスソング。きらめく赤や黄のイルミネーション。
ケーキの箱を抱え、手をつなぐ親子がいる。
「俺だって、あんな普通の人生を送れたはずだった」。
渡辺数美(78)=熊本県=は、一人住まいの家で昨年暮れ、唇をかんだ。

幼少期に変形性関節症を患い、足が不自由だった。
10歳の頃、血尿の治療のため受診した病院で睾丸(こうがん)の摘出手術を受ける。
医師からは何の説明もなかった。

中学を卒業する前後、性器の発達の遅れに気をもんだ。
母親に尋ねると「小さい時に両方の睾丸ば摘出した」。
こうも言った。「先生が『体が不自由な人は、結婚してもこぎゃん子どもができたらいかん』って」

若者の心は深く沈んだ。父親は早くに他界し、5人の子を育ててきた母の苦労は分かっている。それでも-。
「何で俺ばこの世に産んだ。何でこんな体にしてしもうたか」。絶望と怒りを抑えられなかった。

     ∞
20歳と40歳の頃。渡辺が交際し、家庭を持つことも頭をよぎった女性は、
いずれも不妊手術の過去を受け止めてくれた。
ただ、当時の夫婦像は「子どもを産むのが当たり前」とされた時代。結局、自ら別れを切り出した。

手術の影響は全身に及ぶ。ホルモンバランスが乱れ、成人後も伸び続けた身長は190センチを超えた。
胸は女性のように膨らんだ。プールで「ブラジャーをしてください」と注意されたこともある。
侮辱されたと感じ、傷ついた。

「健康な人も障害のある人も、同等に生きていく権利がある。国の謝罪がなければ腹の虫が治まらん」

2018年6月。旧優生保護法(1948~96年)下での強制不妊手術を巡り、
国に損害賠償を求める訴訟を起こした。
今月23日、もう1人の原告と共に熊本地裁で判決を迎える。

母は十数年前に逝った。「数美には悪いことをした」とわびながら。
家族に亀裂をもたらし、希望を砕いた国の責任を、渡辺は問うている。 
(敬称略)