https://www.asahi.com/sp/articles/ASR1T75HRR1TUTQP022.html

被害者がおわび? 暴力告発から10年 「主体性ない」体質の根

オリンピック(五輪)を目指すトップ選手が、指導陣を告発する。厳格な上下関係が染みこんだ日本スポーツ界で2013年1月、そんな出来事が表面化した。ちょうど10年前のことだ。柔道の女子代表15選手が、全日本柔道連盟(全柔連)の暴力的指導とその放置を告発した事件は、社会問題に発展した。選手を支えた辻口信良弁護士(75)は「スポーツ界のエポックメイキングな出来事だった」と振り返る。
――サポートの経緯は。

 12年ロンドン五輪後、選手側は全柔連に監督の暴力的な指導の問題を訴えたが続投が決まった。それで日本オリンピック委員会(JOC)に告発したけど、門前払いのような対応だった。「スポーツ界は自浄作用がない。法的なレベルでどうにかならないですか」という依頼だった。

 ただ、ぼくらも手品が使えるわけじゃないから、効果的なことができるか分からない。不満があるのなら聞きましょう、と。13年1月中旬、同僚の岡村英祐弁護士と大阪から上京して都内の会議室で選手に話を聞いた。

 ――どんな話だった?
 その場には選手が10人くらい集まった。

 16年のリオ五輪を目指さなければいけないのだけど、「またあの練習をするの?」とみんなで顔を見合わせていた。それが印象に残っている。

 練習をしても、すぐに怒られる。一部の人はすぐにたたかれて、ブスとか豚とか言われる。監督の機嫌をとらされ、けがをしていても練習の強制。彼女たちにしてみれば、反論も許されず、動物的にやらされていた
また、ロンドン五輪代表発表のとき、全柔連は選考されない選手も会見に同席させ、選考結果を生中継した。リスペクトを欠く演出で、選手は傷ついていた。

 今の練習を直してほしい。できれば、監督は代わってほしい、という希望があった。

 ――1月30日、「柔道女子代表選手が暴力指導を告発」と共同通信が配信し、監督は辞任した。

 ちょうど、2月4日の記者会見の準備をしている時だった。当初、関西の司法記者クラブで開こうとしたが、幹事社に「選手本人が出席せず、提訴もしていないのならば、会見は受けられない」と断られた。仕方なく、弁護士会館で午後から会見を開きますというリリースを流すと、会見には東京からたくさんのテレビや記者が来た。会見は生放送されるなど、反響は大きかった。