高級な「阪急」とデパ地下「阪神」で明暗 中間価格帯が売れない消費行動の二極化

新型コロナウイルスによる行動制限が昨年春に解除され、活況が戻りつつある百貨店。ところが消費者の購買動向は大きく変化している。ファッションなど高額品の需要が高まる一方、中間価格帯の紳士服や生活用品などは振るわない。背景に物価高と実質賃金の低迷による生活防衛意識、専門店やインターネット販売の拡大がある。各社は生き残りへ、多様な商品価値を提案するなどの新たな戦略を練っている。
■生活雑貨や紳士服が低迷

「デパ地下といえば阪神やろ」。そう考える大阪人は多いようだ。阪急阪神百貨店の阪神梅田本店(大阪市北区)の地下1階食品売り場「阪神食品館」入り口には、人気店の洋菓子を求めて行列をつくる人々の姿が店外にまで続く。

同店は昨年4月、約7年半かけた改装工事が完了し、全面開業。全フロアの3割以上を食品関係とするなど得意の「食」を前面に押し出した。阪急阪神百貨店を傘下に持つエイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングの荒木直也社長は「阪神は食関係の反応が良く、1階の食祭テラス、9階のレストラン街に手応えを感じている」と話す。

ただ、店全体の業績をみると手放しで喜べない。向かい合う位置関係にある阪急うめだ本店(同)の売上高は昨年10月以降、コロナ前の平成30年の水準を上回るペースで回復しているが、阪神の客数はコロナ前の約80%水準にとどまる。

原因の一つは、中間価格帯の商品が売れなくなっていることだ。改装前にファミリー層やシニア層から支持されていた生活雑貨をはじめ、紳士服など中間価格帯の商品を置く中層階の売り上げが低迷している。

一方で阪急は主に若者向けに最先端のファッションを打ち出し、高額なラグジュアリーブランドや宝飾品、時計などを充実させてきた。インバウンド(訪日外国人客)を含めて富裕層による積極的な高額品購入が回復を支えている。

近畿経済産業局の調べでは、昨年11月の近畿地域の百貨店販売額(既存店ベース)は前年同月比で8・8%増。商品別の内訳をみると、宝飾品などの「身の回り品」が14・3%増、「婦人服・子供服・洋品」が10・4%増に対して、「紳士服・洋品」は0・8%増、「家庭用品」は5・9%減だった。こうした購買動向が阪急と阪神の明暗を分ける形になっている。

■消えるブランド

中間価格帯の商品が不振に陥っている背景には、消費行動の二極化がある。

厚生労働省の毎月勤労統計調査の令和3年度分(確報)によると、名目賃金指数を消費者物価指数で割った実質賃金指数(2年平均=100)は、平成8年度の117・1をピークに約25年間下がり続け、令和3年度は100・6だった。

実質賃金の低下は購買力の低下を意味する。ここ数年の物価上昇でようやく賃上げが議論され始めた。

このことが、百貨店で中間価格帯の市場喪失に結び付いているとみられる。H2Oの荒木社長は「欲しいものは金を出しても買う一方で、必要な生活用品はできるだけ安いものを求めるようになっている」と危機感を募らせる。

百貨店ではかつて、高級ブランドのアパレルでも中間所得層でも買える水準に価格を引き下げることで顧客を獲得していたが、そうしたブランドは軒並み姿を消している。

その代表格がアパレルメーカーの三陽商会が扱っていた英国の高級ブランド「バーバリー」。三陽商会は平成8年、20~30代向けに価格を下げた普及版ブランド「バーバリーブルーレーベル」を企画して成功を収めた。ところがブランド価値を重視するバーバリー本社の方針と衝突。三陽商会のライセンスは27年に終了を余儀なくされた。

このほか、販売不振からの撤退も相次いだ。オンワード樫山は令和3年、米国の「CKカルバン・クライン」の取り扱いを中止。国内ブランド「ダーバン」などを展開していたレナウンは経営不振に陥り、2年11月に東京地裁から破産手続き開始決定を受けた。

「百貨店離れ」を起こした消費者は、カジュアル衣料品店「ユニクロ」や、家具・インテリア用品店「ニトリ」など、低価格で品ぞろえも充実した郊外型専門店に向かった。また、インターネットの普及でアパレルメーカーが百貨店に出店せずに直接ネット販売することも増えた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/9a7df6527e675b278ad9b2e8f62124b3308ba1d6