外国人技能実習生の失踪 「受け入れ側に問題」だけ? 失踪や途中帰国でも補償なく 農家「リスク丸抱え」
2/8(水) 7:35配信

 全国各地で受け入れている外国人技能実習生。実習生が失踪すると、受け入れ先は「ひどい仕打ちをしていたのではないか」と見られがちだ。ただ、実習生に逃げられた経験がある熊本県内の農家からは「受け入れ側に責任があるケースばかりではない」との声も漏れる。実習生側の事情で語られがちな失踪問題を、受け入れ側の視点から取材すると、違った景色も見えてきた。

 県南で、家族経営で野菜を生産する40代のAさんが、熊日の「SNSこちら編集局」(S編)に体験談を寄せた。2カ月の間に実習生2人に立て続けに逃げられたことがあるという。

 実習生の受け入れから1年がたち、良好な関係を築いているつもりだった。「給与も勤務時間も当初説明した通り。楽な作業ではないが、失踪は裏切られたようでつらかったですよ」

 2人の失踪で突然、人手不足に陥ったAさんは、定植に向けて購入していた50万円分の野菜苗の廃棄を強いられた。生産量は当初計画の7割まで減った。

 実習生は本来、労働者ではなく、日本で習得した技術を国に持ち帰るという建前で来日している。「労働力として数に入れていること自体に批判があるかもしれないが、日本人は求人をかけても応募すらない」とAさん。多額の投資をしており、いまさら労働力に合わせて生産規模を縮小することはできない。周囲の農家も状況は似たようなものだという。

 実習生を巡っては、暴行やハラスメント、賃金未払いなど、受け入れ側の問題が後を絶たないのも事実で、2022年12月には、制度見直しに向けた政府の有識者会合も開かれた。22年10月末時点の技能実習生は全国で34万3254人、うち熊本県内は7846人。これに対し、21年中に失踪した実習生は全国で7167人、熊本県内で133人と2%前後だ。

 県南でトマトを生産する40代のBさんにも苦い経験がある。オンラインで面談後、渡航費を払って実習生に日本に来てもらった。それが配属前の講習中に突然「東京で働きたい」と言われ、失踪された。

 実習生を受け入れるには事前に海外からの渡航費などを支払う必要がある。こうした初期費用は1人当たり数十万円に上る。「実習生1人受け入れるだけでも、いろんなお金がかかるんです。失踪はつらいし、何とか(原則の)3年いてほしいというのが本音です」。実習生受け入れの費用はどうなっているのか。

 外国人技能実習生は、母国の送り出し機関や仲介する日本国内の監理団体を通じて受け入れ先に配属される。実習生を受け入れる場合、本人への給与や渡航費に加え、監理団体に対して毎月数万円の「監理費」も支払わなくてはならない。

 監理団体は全国に3612あり、熊本県内にも56団体ある。外国人技能実習機構が監理団体を対象に行ったアンケートによると、実習生1人を仲介する際に徴収する初期費用は平均で約34万円。実習生の渡航費用や入国後に行う講習費、募集・選抜費用などのほか、送り出し機関に払うお金も含まれている。初期費用は「80万円以上」や「5万円未満」と回答した団体もあり、ばらつきがある。
 実習生1人当たりの監理費は平均で月3万円弱。仮に4人の実習生を受け入れていれば、監理費は月額10万円を超える。

 Aさんは、作業着や手袋など農作業に必要な備品に加え、毎回、布団や自転車も新品を購入して実習生を迎え入れている。原則3年間の実習期間を想定した支出だ。

 しかし、ある実習生は昨年、体調不良を理由に半年ほどで帰国した。制度上、失踪も、実習途中での帰国も、違約金などは発生しない。「生産に影響が出るだけでなく、金銭的なリスクをすべて丸抱えしていることを改めて実感した」というAさんは、実習生が失踪や帰国した際の補償制度の整備を訴えている。

 ハウスが並ぶ田舎道を自転車で移動する実習生たち。Aさんはその光景を見つめながら「実習生がいなければ収量が半分程度まで落ちる熊本の野菜もあるはず。産地を支えているのは間違いなくあの実習生たちだ」とつぶやいた。(立石真一)

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