https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230226/k10013989961000.html

「うちの大学、卒論の製本やめたって」〜卒論が変わる〜

大学の卒業論文、これまでは製本して提出するケースが目立ちましたが、いまオンライン上で提出する動きが広がっています。

一方、学生の中には学校への提出とは別に「形に残したい」と、独自に製本する動きも出てきています。

論文はオンラインで
東京府中市にある東京外国語大学の研究室には、まだ手書きだった50年ほど前からの卒業論文などの冊子が並んでいます。
しかし、大学では2020年度から卒業論文や卒業研究はオンライン上での提出を求めるようになりました。
大学によりますときっかけのひとつは新型コロナの感染の広がりで、教務課の窓口での対面の受け付けをやめ、データにしてオンライン上での提出になったということです。

インドネシア語が専攻の学生を指導する青山亨教授は「製本して手にできないことは残念だが、提出直前にプリンターの不具合などでゴタゴタすることもなくなり、学生側によい面もあるのではないか。教員側も学生と提出直前までやりとりしやすくなった」と話していました。
卒業論文をデータにしてオンライン上で提出する動きは全国の大学で出てきていて、神戸大学の経営学部や愛知県の椙山女学園大学の一部の学部や学科、それに東洋大学でも文系の学部の8割以上でオンライン上での提出に移行したということです。
でも、形に残したい
こうした中、大学の周辺で卒業論文の製本を受け付けてきた業者や店舗では、製本の依頼が減ったという声も聞かれます。

都内の製本業者などに聞くと「新型コロナの感染が広がった後から卒論の製本依頼がかなり減った」「卒論を印刷する学生の様子も、以前のようには見られなくなった」と話していました。

一方、そうした中でも“勉強の成果を形に残したい” “研究に協力してくれた人に贈りたい”といって、独自に製本の注文をする学生も出てきています。
かみしめながら読めた
東京外国語大学の青山教授のゼミでインドネシアのバリ料理と文化の研究をした岡野悠人さんもデータ提出のみで十分にもかかわらず、みずから製本した1人です。

製本化された研究は「バリ料理研究〜バリ文化とつながるバリ料理〜」というタイトルで、バリ島に1か月滞在して20件以上の飲食店を渡り歩いた記録などがまとめられています。

その中には現地の知り合いの家のちゅう房に入り、バリ料理にかかせない調味料ができ上る過程などを学んだことや、早朝に地元の人に親しまれる大衆食堂前の広場に行き、材料の仕込みからバリ料理ができあがるまでをつぶさに見た成果なども記されています。
岡野さんは「手に取ってみると、データだったら流して読んでしまうような部分もかみしめながら読むことができた。将来、もっとバリ料理のことを学んで本を書きたいと思っていて、今の研究と両方を手に取って見比べ、自分の成長を感じられたらうれしいです」と話していました。
紙だったものがデータに置き換わっていくのは時代の流れですが、自分にとって特別なものは、データのファイルの一つではなく、形あるもの、手に触れられるものとして残しておきたいという動きもまたあるようです。