少し古くて、少し不便。スマホ一つで何でも手に入る時代、レトロの魅力にひかれる人が増えている。

 「画質が悪いところが逆にエモい」

 会社員の女性(24)は、昭和アイドルがほほえむレコードジャケットに何とも言えない心地よさを感じていた。人気アーティスト、藤井風さんのカバー曲をきっかけに昭和歌謡に関心を持ったという彼女のお気に入りは久保田早紀さんの「異邦人」。「プレーヤーはもってないけど、レコードって憧れる」

アナログレコードの人気は若者にも広がっている(東京都渋谷区で)=大金史典撮影

 昨年12月、東京・渋谷のスクランブル交差点に面した「MAGNET by SHIBUYA109」(マグネット バイ シブヤ109)に中古レコード店がオープンした。店内には2万5000点のレコードが並ぶ。高校生の頃から祖母の家で聴き始めたという男性(20)は、「ユーチューブと違って途中で再生を止められない感じも、レコード針特有のノイズも面白い。この不便さがいい」と話す。

 店の名は「RECOfan」(レコファン)。1996年から渋谷にある別の商業ビルで営業していたが、2020年にコロナ禍の影響で閉店を余儀なくされた。渋谷再出店の場に選んだのは、10~20歳代をターゲットにしたアパレル店が入るファッションビルだ。店長の加藤令さん(48)は、「ここ2~3年、別の店舗でも若い人の来店が増えている」と手応えを感じている。

デジタルネイティブ、「手間」に魅力
アナログレコードの生産が回復している

 オンラインで音楽を聴くストリーミング全盛の時代。店に来てお気に入りを探し出し、プレーヤーにかけるまでの「手間」に価値を感じる若者も多いという。

 アナログレコードの人気は高まっている。日本レコード協会によると、生産数は09年に10万枚に落ち込んだが、21年には190万枚まで回復した。

広がるレトロブーム

 青春時代を懐かしむ中高年層に加え、レトロ回帰を先導するのが、1990年代半ば以降に生まれた「Z世代」と呼ばれる若者たちだ。インターネット環境が整った中で育った「デジタルネイティブ」が手間のかかるアナログに楽しみを見いだしている。

 富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」もその一つだ。「カチッ、カチッ」。色調を調整するダイヤルを回すと鳴る音は、手触り感を楽しんでもらうための演出だ。

 チェキは98年に発売されると、女子高校生らの間で大ヒットした。2000年代半ばにカメラ付き携帯電話が普及すると、販売は低迷したが、韓国ドラマで使われたのをきっかけに人気が再燃。昨年11月には新たなフィルム製造ラインを稼働させた。今や同社の稼ぎ頭だ。

 イメージングソリューション事業部の高井隆一郎統括マネージャーは、「Z世代にとってアナログこそ新鮮だった」と分析する。

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