https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/03/post-100996.php

地上の地獄──血まみれの土地に巨大刑務所開設、エルサルバドル

<ブケレ大統領は、同国の他の刑務所では受刑者が、売春婦を呼んだり、プレイステーションを楽しみ、電話の使用ができる環境だと主張している。こういった行為は新たな刑務所では一切許されない>

中央アメリカ中部に位置するエルサルバドル。この国に、地上の地獄と言えそうな新しい刑務所ができた。

首都サンサルバドルの南にあるテコルカ市の農村地域に開設された「テロリスト監禁センター(CECOT)」は、アメリカ大陸において最大規模で、施設は8つの鉄筋コンクリートの建物から成る、最大で4万人を収容できる巨大刑務所だ。2月24日、最初の収容者2000人が移送された。
収容者は逮捕されたギャング達。丸刈りにされ、上半身裸の2000人もの男性が後ろ手に手錠をかけられ、足は鎖でつながれている。収容者のアイデンティティは剥奪される。収容者100 人に対して80のベッドしかないと、英デイリーメールは報じている。

「支配」を究極のレベルに
刑務所は受刑者の生活を支配し、自由を奪うように設計されるが、CECOTはそれを究極のレベルまで引き上げている。

エルサルバドルのナイブ・ブケレ大統領は、同国の他の刑務所では受刑者が、売春婦を呼んだり、テレビ視聴、さらにプレイステーションを楽しみ、電話の使用ができてしまう環境だと主張している。こういった行為はCECOTでは、一切許されない。

外界との接触を不可能にするため、携帯電話の信号を遮断する電子スクランブラーを導入。脱走防止策として、頑丈な鋼鉄の独房、周囲を囲う壁、19の監視塔、 電気柵、パトロールエリアといった、7つの「壁」を作った。

ギャングへの強いメッセージ
エルサルバドル政府がここまで強烈な刑務所を作ったのは、国を悩ませてきた暴力的なギャング達の、暴力の応酬に終止符を打ちたいからだ。

約12年間続いた内戦は終わったものの、戦中に流出した武器が国内に大量に残されており、ギャングによる犯罪が横行している。経済状況は停滞し、貧困率も高く、治安は悪化の一途。米『グローバル・ファイナンス』が発表した「世界で最も治安の良い国ランキング」によると、エルサルバドルは105位だ。
ギャングの麻薬密売と恐喝は、エルサルバドルの日常の一部と化し、毎日10〜20人が殺されていたという。

2020年に政府は「領土管理計画」として知られる治安政策を打ちだし、独房への自然光をすべて遮断すること、家族の訪問を禁止すること、囚人を鎖でつなぐことを含む強硬策に出た。それでもギャングの勢いは止まらなかった。新型コロナウイルスによるパンデミックの間、犯罪はさらに増えた。
2022年3 月に、わずか1日のうちにギャングによる殺人事件が62件発生した後、国会は非常事態を宣言。そして 12 月には、1万人の政府軍が首都のソヤパンゴ地区を包囲。すべての道路が封鎖され、特殊部隊が家々を回りギャングのメンバーを探した。

この「ギャングとの戦い」の最初の1ヶ月で、少なくとも1万7,000人が逮捕され、投獄された。最終的に逮捕者は 6万4,000人になった。エルサルバドルの人口 630 万人のほぼ1%に相当する数だ。

人権団体からの非難も出たが、ブケレ大統領のギャングに対する強硬姿勢は国民からの支持を集め、ある世論調査では90%の支持率が示された。そして、大統領の命令で、CECOTの建設が始まった。「目的は、ギャングを完全に消滅させることだ」と、ルネ・メリノ国防大臣は言った。

とはいえ忘れてはならないのは、残忍な扱いは残忍な人々を生み出す温床になるということ。最終的に、刑期を終えた罪人は解放される。家畜のような扱いを何年も受けた彼らは怒りに燃える可能性がある。エルサルバドルの冷酷な努力は、この血まみれの土地をより危険なものにするだけかもしれない。