東京新聞 書評

『ネット右翼になった父』鈴木大介 著

[評]石戸諭(ノンフィクションライター)
 
最近、三十代の私の周囲でも親世代の右傾化を嘆く声を聞くようになった。問題の嚆矢(こうし)となったのは間違いなく鈴木が二〇一九年に執筆し、本書冒頭に収録した記事である。
「商業右翼コンテンツ」に熱中した鈴木の父は、晩年ネット右翼のような言葉を口にするようになった。右派メディアに父の思考を汚染されてしまったという嘆きと激しい怒り、家族が分断された悲しみを綴(つづ)った記事は、大きな反響を呼んだ。

この記事を読んだ時、納得と同時に疑問もあった。私には右派メディア、右派文化人を取材してきた経験がある。
彼らを駆動させているのは往々にして信念というより、朝日新聞的な“リベラル”“権威”に対する反発だった。
のめり込む理由は案外薄い。知的で教養文化に親しんでいた彼の父も、ネトウヨになる理由はそこまで深くないのでは……。

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https://www.tokyo-np.co.jp/article/234581?rct=shohyo