世界で「最低賃金1500円」は当たり前なのに、なぜ日本人は冷ややかなのか
https://news.yahoo.co.jp/articles/2a7e5bb123affb1fe458576e0fb9661f24712b40

先日、「最低賃金を全国一律1500円に」がTwitterのトレンドに入った。
春闘が盛り上がる中で労働組合が物価高に負けない大幅賃上げを訴えており、その流れでSNSでもこのような主張が拡散されたようだ。確かに「#最低賃金を全国一律1500円に」でTwitterデモも呼びかけられている。
ご存じのように、日本の賃金は世界的に見ても異常なほど低い。ついには平均給与でお隣の韓国にも抜かれてしまう有様で、英語が多少しゃべれる若者は、沈みかけている船から逃げるネズミのように、海外の高収入な仕事を求めて日本を脱出している。
こんな危機的状況ならば、「最低賃金を全国一律1500円に」という呼びかけにはさぞ多くの人が同調しているのかと思いきや、ネットやSNSを眺めるとそれほどではない。
むしろ、盛り上がっているのは一部の野党色の強い人たちばかりで、ほとんどの人は「静観」という感じで、「最低賃金引き上げも大事だが、それよりも税金が高すぎる」「最低賃金を引き上げる前に消費税をゼロに」と別案を主張している人も少なくない。
要するに「最低賃金を全国一律1500円に」というのは、特定のイデオロギーを持つ労組や野党が触れ回っている「現実離れした理想論」に過ぎないと考えている人がかなりいるようなのだ。
確かに、この手の主張をしているデモを見ると、「反原発」とか「軍拡反対」などと書かれたのぼりが立っているのも事実だ。だが、常軌を逸した低賃金と物価高騰というダブルパンチで貧困へ転落する人が増えているなかで、「最低賃金の引き上げ」は効果が期待できる施策のはずだ。
にもかかわらず、シラけている。なぜこうなってしまっているのか。
地方が衰退するのは「自業自得」
いろいろなご意見があるだろうが、特定の政治イデオロギーの人たちが叫んでいるので、政権批判のために叫んでいるスローガンだと誤解されてしまったのではないか。つまり、「最低賃金を全国一律1500円に」というのは実現が難しい理想論だと捉えられてしまっているのだ。
ただ、それは大きな誤解だ。「最低賃金を全国一律1500円に」というのは世界的に見れば、しごくまっとうな要求で、多くの国の人からすれば「なぜ日本人はそんな当たり前のことを叫んでいるの?」と首を傾げるような話なのだ。
ご存じの方も多いだろうが、世界では最低賃金「全国一律」がスタンダードだ。小西美術工藝社社長、デービッド・アトキンソン氏の以下の記事によれば、国土が広い米国、ロシア、ブラジル以外で「地域別」を導入しているのは日本だけだ。
『最低賃金を絶対「全国一律」にすべき根本理由』(東洋経済オンライン 19年2月8日)
これは当然で交通が発達した現代で、都市部と地方で最低賃金に差ができると、安い賃金で働く可能性が高い若者や女性は続々と地方を捨てる。つまり、「宮崎は853円で東京は1072円」という最低賃金格差の大きなこの国で地方が衰退しているのは、「自業自得」でもあるのだ。
また「最低賃金1500円」も、すぐに実現できるかどうかはさておき、掲げる目標としてはそれほど荒唐無稽ではない。
なぜかというと、日本以外の先進国の最低賃金はとっくに1500円以上になっているからだ。といっても、これはよく日本で言われるように「経営者が自主的に賃上げできるような環境整備をすべき」なんてことをしたわけではない。消費税をゼロにしたわけでもない。また、政府が中小企業に「お願いだから賃上げして」と頼み込んで“賃上げ協力金”をバラ撒(ま)いたわけでもない。
ごくシンプルに、政府が物価上昇に合わせて最低賃金を継続的に引き上げたからだ。『「賃上げの予定なし」7割の衝撃中小企業で働く人は「安月給」のままなのか』の中でも詳しく解説したが、世界では中央政府などが「経済政策」として最低賃金を大胆に引き上げていくのが常識だ。