巨大な哺乳動物が大量のコカインを摂取したらどうなるのだろうか。エリザベス・バンクス監督のホラーコメディー映画『Cocaine Bear(コカイン・ベアー)』は、コカインを食べたクマが人々を襲って大混乱を巻き起こす様子を描いている。この映画は現在、全世界で5700万ドルを超える興行収入を上げるヒットを記録している。同作に登場するクマには、現実のモデルが存在し、そちらは笑い事で済ませていい問題ではない。
現実のコカイン・ベアーの物語の発端は、数十年前に遡る。
この実話にまず登場するのは、アンドリュー・カーター・ソーントン2世という名の男性だ。1944年に米ケンタッキー州の著名な馬のブリーダーの息子として生まれた彼は、米軍の空挺部隊員となり、1965年にアメリカがドミニカ共和国に侵攻した際には、名誉の負傷に贈られるパープルハート勲章を授与されている。
ソーントンは同年、軍を離れてケンタッキー州に戻り、レキシントン警察の麻薬取締班に加わった。しかし、彼はじきに、麻薬を取り締まることよりも売ることに興味を引かれるようになる。
そして1985年9月、ソーントンは飛行機に乗り込み、米テネシー州ノックスビルの上空で、1500万ドル分のコカインが入ったダッフルバッグを持って飛び降りた。これが彼にとって最後の麻薬密輸ミッションとなった。パラシュートが開かず、死んでしまったためだ。
ソーントンの人生は終わっても、話はそこで終わらなかった。彼の死の2カ月後、ジョージア州のハンターが1頭のクマの死骸を発見した。その周辺には、後に捜査当局によってソーントンのものであると確認されたダッフルバッグの残骸が散乱していた。監察医は、体重90キログラムもあるクマは、3~4グラムのコカインを摂取した後、急性コカイン中毒で死亡したと結論づけた。「人を殺すには十分な量です」と、捜査員は記者に語っている。
ほんものの「コカイン・ベアー」が森の中で発見されたときには、すでに死後1カ月がたっていた。映画で描写されている暴れっぷりとは対照的に、このクマが死ぬ前に威嚇や破壊行為を行ったという報告はない。クマはまた、ソーントンが密輸したと思われるコカインをすべて食べたわけではなく、当局によると、残りの麻薬は人間によって持ち去られたと見られるという。
コカインによってクマがなんらかの生理的反応を経験した可能性は高いが、このクマの死にまつわる話において重要なのは、クマがハイになったかどうかではなく、人間が廃棄するものがいかに動物たちを危険にさらしているかを浮き彫りにしていることだ。
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