ほとんどすべての宗教で、ハゲ頭の宗教的人物が存在している。ブッダ、キリスト教の聖人ヒエロニムス、アウグスティヌス、そしてさらには、日本の福禄寿や布袋などはハゲ頭だ。

宗教や政治の指導者たちもまた、ハゲ頭を推奨してきた。キリスト教の修道士の剃髪(トンスラ)は頭頂部だけを剃り、周りに髪を生やす髪型だ。満洲族の弁髪は後頭部の髪だけを伸ばして編み、それ以外を剃り上げる。

だが20世紀に入り、ハゲ対策製品の販売戦略が起きると、世間のハゲに対する見方を変化させた。ハゲは美的に何の問題もなかったのだが、それが「治療」が必要な「劣等性の病」となってしまった。

こうした「治療」には、高価で効果のない「ヘビ油」を使った製品から、ミノキシジルのような(限定的ではあるが)発毛特性をもつ認可処方に至るまである。

こうした製品の広告は、ハゲが「警戒すべき現象である」という印象を助長した。

社会言語学者ケヴィン・ハーヴェイは2013年、オンラインで表示されるハゲ対策の広告に着目している。髪のある男性は「魅力的で成功しており、幸せそうなキャラクター」として描かれる一方で、ハゲた状態は「男性をひどく苦しめ、不利にする病気である」という主張が展開されていることを観察した。

ハゲ対策用シャンプー「リナキジル」の広告では、毛包が「自殺」しそうな場面を描いている。そこへリナキジルのボトルが手を差し伸べて、毛包を救うのだ。

https://courrier.jp/news/archives/320029/