米ロサンゼルス有数の観光地ハリウッドを訪れるたび、同じ思いが込み上げる。
あの施設は本当に必要なのだろうか――。
「施設」とは、日本の外務省が2017~18年、文化面に加え、領土問題や歴史認識など日本の「正しい姿」の対外発信拠点として開設した「ジャパン・ハウス」を指す。
ブラジルのサンパウロとロンドンにもあるが、とりわけロサンゼルスの施設は、立地の悪さもあって、来館者数が伸び悩む。
施設の有用性は、計画段階から疑問視されていた。「まれに見る節度のない予算だ」「建物を作れば対外発信になるとは、戦略がなさ過ぎる」。
14年11月、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の財政制度分科会では、施設の設置計画に対し、委員から 辛辣しんらつ な意見が相次いだ。
それでも、15年度予算で、施設の「創設関連経費」に35億円超が充てられたことに驚く。
当時の委員の一人は「珍しいことではない。当時、外交予算には追い風が吹いていた」と明かす。
背景には、中韓両国の「反日」宣伝に対する当時の自民党や安倍政権の危機感があった。
中国は尖閣諸島の領有権を不当に主張し、自国文化を普及させるため、「孔子学院」などの海外拠点を1000か所以上も開設。
韓国による慰安婦像の設置も相次いでいた。
とは言え、米国文化を楽しみにハリウッドを訪れる観光客が、日本の「正しい姿」にどれほど興味を持つのだろうか。
そもそも、海外の大都市で、自国の政治的な立場を発信するという発想自体に無理がある。
外務省関係者も「むしろ逆効果になるが、『反日』宣伝対策という建前があって予算化された」と認める。
展示内容は、おのずと伝統工芸や現代アートなど文化的な発信に偏るが、同様の役割を担う海外の組織は枚挙にいとまがない。
3施設の予算は、22年度までの8年間で計288億円超に上る。
施設が存続する限り、毎年多額の税金が投じられる。「成果の見通しが不明確。具体的な成果目標を設定し、国民が事後的に検証できるようにすべきだ」。
財務省は14年の分科会でくぎを刺したが、外務省は、年1回公表される「実施報告書」以外の情報開示には後ろ向きだ。
施設の運営方法を助言する大学教授らの有識者諮問会議も、15年の初会合から3年半ほどで終了した。出席者によると、ここでも既存の在外組織との違いや不明瞭な運営計画について、厳しい指摘が出ていたという。
日本の対外発信を強化する重要性自体は否定しない。「箱物」が真に効果的なら設置箇所を増やす選択もあっていい。
実際、分科会向けの説明資料では、香港とイスタンブール、ジャカルタも候補地となっていた。
その後、動きがないこと自体が、ジャパン・ハウスの存在意義に対する答えなのだろう。